竹クラーベ@渋谷AX



 『TAKE A CLAVE』というラテンのオムニバス・アルバムのレコ発ライヴ。出演は順に、UA、TICO (ex.Latribe)、copa salvo、CENTRAL、佐藤タイジ&中條卓(THEATRE BROOK)。
 私にとっては完全にUA目当てでのライヴで、UAとTHEATRE BROOKを除くと全く未知の面子で、辛うじてcopa salvoの名前は聞いたことがあるという程度。しかし結果オーライの楽しいライヴであった。
 残念ながらAXはガラガラ。先日のトッド・ラングレンといい勝負だ。10代が喜びそうな音楽ではないし、ファン層としては社会人が中心だろうから、12月の平日では動員は厳しいのだろう。そういえばヤフオクを見ていて発見したのだが、EGO-WRAPPIN'12月の恒例イベント、東京キネマ倶楽部でのライヴチケットはイブの24日よりも祝日の23日分の方が高値で落札されていた。どちら様も余裕が無いのだなあ。世知辛いことである。
 オープニングのUAはスティール・パンとムーグの大野由美子(Buffalo Daughter)とシタールヨシダダイキチを従えて登場。まずはアカペラで島唄(「おぼくり〜ええうみ」?)を独唱。登場時にはややざわついていた場内が、一気に静まり返る。相変わらず存在感のある声で、場の空気を変えてしまう。続いて伴奏付きで「ファティマとセミラ」。スティール・パンとシタールだけのシンプルなアレンジながら、こんな組み合わせの音楽は聴いたことがない。シタールは例のビヨヨヨ〜ンと鳴る弾き方ではなく、ギターのように使っており、西洋音階でも弾けるのかと妙なことに感心した。次はノイジーなムーグに合わせての「ブエノスアイレス」。ところがワン・コーラス目の途中で「あ、間違えた」と言って中断。「もう1回やってええ?」と断ってやり直す。どうも歌詞が部分的に思い出せなかったようで、2回目に歌った時も「ラララ〜」と誤魔化し、「ここがわからへんねんな」と客を前にしているとは思えない発言が飛び出す。客は固唾を呑んで見守っているのに、当のUAはリラックスそのものだ。決していい加減に歌っているとは思えないので、これが自然体UAの姿なのだろう。
 最後は「踊る鳥と金の雨」。わずか4曲、20分ほどの短いステージだったが、歌唱の出来は素晴らしく、来たかいのあるライヴであった。ただ、現在制作中と伝えられている次のアルバムからの新曲が聴けなかったのは残念。あくまでレコ発記念のイベントへの出演だったようで、この編成でのライヴは新作を占えるものとも思えなかった。UAの調子は悪くないようなので、楽しみは来年に持ち越しだ。
 UAが終わってしまえば、私にとっては残りはオマケのようなもの。詰まらなかったら最悪途中で帰ればいいやと思っていたのだが、それはとんだ間違いでした。その他の皆さんゴメンナサイ。
 男性ヴォーカルを中心にしたTICOは本格的なサルサ・バンドで、今日がラテン音楽のイベントであったことを思い出させてくれた。編成も曲調も立派にラテンなのだが、日本語詞のポップ・ナンバーもあったりして、単純に並行輸入を行っているのではないこともよく分かった。昔チカ・ブーンってのもいたなあ、などと思い出したり。ヴォーカルはずっとフラット気味だったし、演奏ももう少し上手ければより引き締まると思ったが、ピアニストが美人だったので、彼女の健気なプレイに免じて甘めの採点。
 copa salvoは前述の通り、名前だけは知っていた。実際の演奏は想像以上に素晴らしいものだった。こちらも同じくパーカッションだけで3人もいる大編成のラテン・バンドで、サルサブーガルーなどをベースに、ソウル、ロックの要素も織り交ぜた一種のミクスチャー。タレサンが似合うヴォーカルのキャラクターが象徴するように、猥雑さが漂うところがイイ。このエッセンスがあるかないかでラテン音楽の評価はかなり変わる。比較して悪いが、スクエアさが目立ったTICOよりライヴ慣れが感じられ、技術的にも高度に写った。加えてこれまたピアニストが美人と来ている。何ですか、ラテンのバンドは綺麗なお姉ちゃんがピアノを弾かねばならないという決まりでもあるのですか?そういう決まりはぜひ徹底してもらいたい。演奏は文句なしで、本日最大の収穫。レコード買います。
 続くCENTRALはメンバーが一部TICOと被っており、音楽的にもTICOと似た傾向。TICO同様、真摯に音楽に取り組んでいるんだろうなということは伝わってくるものの、いかんせんそこで止まっており、copa salvoを見た後ではやや物足らなかった。
 トリは佐藤タイジと中條卓のTHEATRE BROOK2名に、パーカッション(名前失念)を加えたセッション。登場直後「何で俺らが呼ばれたのかわかれへん」と佐藤タイジがこぼしていたように、この日の面子の中ではUA以上に異色。「今レコーディングしている新譜の中から」と紹介して新曲を演奏しても、基本的に何ら変わりのないTHEATRE BROOKの音だった。G LOVEなどに通じるグルーヴは感じられるものの、70年代ロックを引きずる古典主義の臭いは消しようがない。数年ぶりに見ても何も変わっていないところが好きになれないところでもあり、決して嫌いにもなれない部分である。普段の客層と違うために今ひとつ盛り上がらないことに不満を露わにしながら、それでも彼らならではの手法で半ばヤケクソに会場をひとつにしたラストには感心した。TICO、copa salvo、CENTRALからパーカッション、ピアノ、メロディカなどのゲストを招いてのセッションで、「こんなの滅多にやれへんからな!」と恩着せがましいMCの後始まったのが「哀愁のヨーロッパ」。例のギターが始まった途端、観客は歓声と笑いに湧いた。ラテンと言ったらサンタナかよ(笑)。あまりにも分かりやすく、くどいくどいフレーズをしつこく弾きまくる佐藤タイジに観客も爆笑しながら熱い声援で応えたのだった。年末だし、忘年会気分でこういうのも良かったんじゃないの?