A Tribute to Elvis Costello

i’m in great shape



 おっそろしくチープでセンスの無いジャケットからはバッタものの臭いがプンプン。エルヴィス・コステロの名前が入っていれば何でも手を出してしまう私のような酔狂なファンか、間違えて買ってしまう人以外はいかにも縁が無さそうな作品だ。しかし侮るのは早計だった。ここに収録された全10曲は、あらゆるECカヴァーものの中でも最良の出来ばえである。
 裏ジャケットに小さくクレジットされている通り、全曲を演奏しているのはPatrik Tannerなるアーティスト。発売元はTRIBUTE SOUNDSというアメリカのレーベルで、リンク先を参照してもらえればお分かりのように、他にもビリー・ジョエル、クイーン、スティングからグリーン・デイオフスプリングなど脈略の無いカヴァーアルバムばかりをリリースしているところだ。日本でもキヨスクやディスカウントショップなどでよく見かける手合いであり、音楽的に内容を云々するべきものとは思えない。同レーベルの他の作品を聴いていないので、この『A Tribute to Elvis Costello』だけが特例の可能性は充分あるが、このアルバムに関して言えば、Patrik Tannerによる丁寧な演奏と、独自の解釈によりエルヴィス作品に新たな躍動感を与えることに成功しており、聴き応えがある。
 アルバム全体はアメリカ南部の音楽を経由したダウン・トゥ・アースなほろ苦い感触で包まれている。しかしルーツ音楽べったりではないクールな距離感は世代の若さ故だろうか。最初このPatrik Tannerはアメリカのアーティストかと思ったのだが、オフィシャルサイトに掲載されたバイオを読んで納得。生まれはスウェーデンで、パンクのレコードを聴いて育ち、後にアメリカへ渡った人のようだ。パンクのアティテュードを持ちつつ、カントリーなどルーツ音楽にも惹かれる資質は、まさにエルヴィス・コステロに通じるものだ。
 10曲ある収録曲の内、「Different Finger」「5ive Gears in Reverse」「Hurry Down Doomsday (The Bugs Are Taking Over)」など普通なら取り上げようと思わない曲が何曲も含まれていることから、彼が熱心なエルヴィスフリークであることは想像に難くない。また先に触れたように、片手間仕事とはとても言えない丁寧なアレンジや演奏は、レーベルの安易な企画のイメージから逸脱したものだ。彼のアルトヴォイスは好みが分かれるところだろうが、私には非常に心地よく響き、アメリカンイントネーションの歌詞が耳に入り易いこともあって、「Peace in Our Time」などオリジナルよりメッセージが感動的に伝わったほど(おっと問題発言)。
 エルヴィスのファン以外には勧められない作品には違いないが、私は充分楽しめたし、Patrik Tannerのオリジナル作品も聴いてみたいと思ったのだから、トリビュートアルバムとしては成功している。