Hot Club of Cowtown@渋谷club quattro

swing boys & girl



 Totちゃんがチケットを余らせたというので、譲ってもらって観に行ったライヴ。「アコースティックスウィングもの」とだけ聞いていた以外は予備知識ゼロの状態で会場入り。
 開演時間になりメンバーがステージに現れ…、んっ?!あれはトムズキャビンの麻田さんじゃないか。今日は麻田さんのバンドのライヴだったの?と思ったら、麻田さんのバンドはオープニングアクトだった。主催者であるイベンターの代表が自らステージに上がるとは思わなかった。しかし麻田さんの音楽的好みがストレートに反映されたアーティストを招聘しているトムズキャビンだからこそ可能なのだろう。そのバンドはボブ・ウィリスのカヴァーを中心に演奏するヒルビリーとデキシーランドを融合させた、言わば1930年代のミクスチャーバンド。ギター、ベース、ドラム、スチールギターフィドル×2、トランペット、サックスという大所帯で、「(このバンドでの)ライヴは2年ぶりぐらい」との麻田さんの言葉にもあったように、演奏にはいくらか固さとぎこちなさが感じられたが、不勉強にしてボブ・ウィリスをほとんど知らない私には良いガイダンスとなった。ペティ・ブーカの2人をコーラスに迎えた曲などは会場もかなり盛り上がる。
 そしてHot Club of Cowtown。こちらはフィドル、ギター、ベースのトリオで、フィドルは女性。演奏曲の約半数がインストだが、ヴォーカル曲では3人それぞれがリードも取る。とにかく演奏も歌も巧いの巧くないの。たった3人でパーカッション無しの編成なのに、音に厚みがあり、その〜、何だスウィングしてるのだ。他に言いようがないのがもどかしい。音楽の様式としてはバップ以前のスウィングジャズとヒルビリーが掛け合わされたもので、連想されたのはジャンゴ・ラインハルトステファン・グラッペリのコラボレーション。実際ギターとフィドルのスタイルはそれに倣ったものだった。そこへ並みのロカビリーバンドならびっくりして座りションベンしてバカになっちまうような攻撃的なスラッピン・ベースが絡む。大半の曲はパンクスが舌を巻くほどに速く、扇情的に客を躍らせる。
 ロックを中心に音楽を聴いていると、アイディアやパッションが優先で技術は二の次で良いという価値観が形成されがちで、私も長いことその価値観の中で音を評価してきた。しかるにHot Club of Cowtownはスタイルこそ旧来のものを継承しながら、確かな技術の裏付けによって聴く者を圧倒する。もしかすると彼らは時代を見据えた確信犯であって、あえてスウィングを選択したのかもと思わなくもない。しかしこれだけの演奏力で聴かせられると、古かろうが新しかろうが関係ないね、良いものは良いでいいじゃないか!と白痴状態に陥ってしまう。祝日としてはやや寂しい入りのクアトロではあったが、この熱演を前に観客の反応は上々。曲が終わる度に一人一人が数人分の喝采を送るので動員の少なさは充分カヴァーしていた。後半素晴らしい声を持つエキゾチックな顔立ちの女性シンガー(誰?)がゲストで登場し、3曲ばかり歌ったのも思わぬ収穫。予備知識が全く無くても十二分に楽しめた。本当はこの日別のライヴへ行く予定があったのだが、キャンセルしたことに何ら後悔はしていない。むしろチケットを譲ってくれたTotちゃんには感謝。ジャンゴもグラッペリも見ることはできなかったけど、Hot Club of Cowtownでそれに近い体験ができたような気がする。
 
追記
 Hot Club of CowtownのCDを持っていなかった私は、帰宅後ジャンゴ・ラインハルトが聴きたくなり、1枚のCDを取り出して愕然とした。ジャンゴとグラッペリがコラボレートしたのはQuintette of the Hot Club of Franceと言う楽団だったのか…。Hot Club of Cowtownは正にこの翻案だったのだ。orz
 さらにこれを書いている途中でTotちゃんからメールで報告が。ゲストで出たお姉ちゃんはたまたま来日中だったMichelle Shockedだったって。言われてみれば…。気付けよ、わし。orz