Glenn Tilbrook@渋谷gabowl

グレン最新作!!



 急遽開かれることになった振替公演(昨日の日記参照)。発生したキャンセル分は当日券に回したのでそれでも満員盛況だった。私は整理番号が若かったので、運良く3列目の座席を確保。ステージからは3メートルほどしか離れていない。
 自身もグレンのファンだというオープニングアクト青木孝明の短いステージが終わると、近所にタバコでも買いに行くかのようにふらっとグレンが登場。2本のギターとマイクしかない、専用の照明すら無い簡素なステージでかつてマジソンスクエアガーデンを2日間も満員にしたグレン・ティルブルックが歌うのだ。しかし当のグレンは飄々としたもので、往年のスターの悲哀も無ければうらぶれた風情も無い。それどころかこの日演奏することを本当に楽しみにしていたと言わんばかりに、溌剌とした演奏を聴かせる。この人にとっては2万人だろうが100人だろうが観客の数など関係ないようだ。昨日新幹線に缶詰にされた疲れを見せないタフさも。
 この2〜3日というもの、復習がてらスクイーズのアルバム各種を聴き直していたのだが、名曲の多さには改めて唸らされた。普通のソングライターなら生涯に1曲書けるかどうかのメロディーが、1枚のアルバムにゴロゴロしているのだから。さすがにサウンド面では時流にはそぐわない部分もあるのだが、ここ最近イギリスではメロディアスな曲を書くバンドが復権していることもあるし、何らかのきっかけで再び脚光を浴びることは充分に考えられる。その名曲の数々を目の前で弾き語ってくれる贅沢。チケット代は払っているものの、お金には換算できない経験だ。
 7年ぶりの再会となったグレンは、年月の流れを感じさせる風貌になっていた。声域も少し狭まったような。しかしギターは相変わらず冴え渡っていた。「Take Me I'm Yours」や「Slap And Tickle」のイントロまでもアコースティックギター1本で再現してしまうのだから恐れ入る。今回グレンが来日したのは、実はヤマハでギターの教則ビデオを制作するためだったそう。その仕事を終えた後、数日スケジュールに空きがあったため、弾き語りライヴがブッキングされたという経緯がある。それほどの人なのでギターが上手いのは当然なのだが、ニューウェイヴ世代でこれだけ弾ける人は意外と貴重。
 この日は台風一過にも関わらず秋雨前線が停滞してどんより曇っており、気温はそれほどではないものの、湿度が高くじめじめしていた。日本人でも不快な気候なので、イギリス人のグレンにとってはなおさらだったろう。1曲歌い終える度にタオルで汗を拭う姿が痛々しい。オープニングから30分ほど過ぎる頃にはシャツが汗でぐっしょり。これにはグレンも堪えたようで、それまで使っていた6弦から12弦に持ち替えると、「ここは空調も効いていないし、外へ行こう」と言ってステージを降り、本当に外へ行ってしまった。誰もがびっくりしつつ、グレンの後を追う。100人の観客がぞろぞろと出てくると、グレンは六本木通りの歩道で「Goodbye Girl」を歌いながら行進。観客もサビを合唱しながらグレンに着いて練り歩く。さながらハメルンの笛吹きだ。しかし会場内では撮影が禁止されていたこともあって、観客がここぞとばかりに携帯で写真を撮りだしたのはちょっと興ざめ。気持ちは分からないではないけど。しかもレコーディング及び音響エンジニアとして来ていた高橋健太郎さんまでもが携帯をかざしてグレンを追いかけていたのは呆れるを通り越して笑ってしまった。高橋先生、何やってんスか!
 路上ではもう1曲「Pulling Mussels (From The Shell)」を歌ったところでスタッフが制止。グレンも笑いながら「これ以上続けると警察が来る。みんな戻ろう」と言って行軍はお開き。それにしてもグレンと一緒に路上で歌う日が来るとは思わなかった。
 ハプニングを挟みつつ、というかそのハプニングがライヴのプレミア度を高めながら、ステージは早くも終盤。グレンが積極的に呼びかけなかったせいか、7年前の下北ラ・カーニャでの弾き語り公演に比べると観客からはあまりリクエストの声が上がらず、総じて大人し目であった。観客も高齢化しているのであまり羽目を外さなかったのか?それでも大阪公演も観たマツウラ情報によれば「大阪の3倍は盛り上がった」らしかったのだが。このまま終わらせてしまうのは惜しかったので大阪ではやらなかった(はずの)「If It's Love」をリクエスト。しかしグレンは「『If It's Love』かぁ…。忘れちゃったよ」と却下。orz
 その代わりのつもりなのか、セカンドアルバムから「Touching Me, Touching You」を披露してくれた。オリジナルよりテンポを落としたバラードヴァージョンになっていたのも驚いたが、それよりこの曲が今更ライヴで聴けたことに驚いた。こんなに古い曲は覚えているのに、どうして「If It's Love」は忘れるんだよ。私憤はともかく、「Vanity Fair」や「Melody Motel」など渋めの、しかも大阪では歌われなかった(はずの)曲が聴けたのは嬉しかった。セットリストに関しては欲を言えば切がない。
 本編だけでは当然終わらず、しつこくせがむ観客の声に答えてアンコールを2度もやってくれた。最後は「Black Coffee In Bed」でコーラスパートを観客で合唱して幕。トータルでは2時間半に及ぶライヴだった。弾き語りでこれだけ楽しませることのできるアーティストはそういるものではない。何曲か演奏された最新アルバムからの曲もスクイーズ時代の名曲に引けを取らないもので、グレンのアーティストとしてのポテンシャルが落ちていないことを実感させた。ファンとしてはこんな小規模のライヴを観ることが出来て至福の時を過ごしたが、これだけの曲を書くソングライターであり、卓越したギタリストであるグレンには、大舞台が相応しい。