忌野清志郎@日比谷野外音楽堂



恒例夏の野音。今年は2日間で、今日が最終日だった。RCサクセションの時代からクリスマスの武道館と夏の野音は、ユーミンにおける苗場や厨子マリーナみたいなもので、ファンにとっては年中行事であり、それだけにエキスパートが集結する場所でもある。構成は昨年から今年にかけて行われたWANTEDツアーを踏襲しており、つまり先日のフジロックでのステージとも同じなのだが、そこはやはり野音だけあり、コアなファンも納得できる内容だった。
昼過ぎまで降っていた雨も開演時間にはすっかり止み、やや気温は低いもののコンディションは申し分なし。「KINGのテーマ」に乗せてジェームス・ブラウンから借用したMCの煽りの後、KING忌野清志郎登場。これはもうお馴染みのオープニング。1曲目は大抵「雨上がり〜」あたりでこれもお約束のように盛り上がるのが通例だが、この日はスペシャル。何とレイ・チャールズの「What'd I Say」で始まった。絶対受けることが分かっている定番曲よりこうしたサプライズがある方が、今日の観客には向いている。
WANTEDツアーからの編成はブルーデイホーンズが復活したことに象徴されるように、RC時代と同じであり、RC時代の代表曲も惜しげもなく演奏される。その分新曲の登場頻度は下がるし、要所で演奏されるのはどうしても昔の曲目だ。それでもストーンズやフーに比べればまだまだ新曲の比率は高いし、30年以上のキャリアを考えれば当然の成り行きだろう。ノスタルジーから逃れようとするのは不自然だ。
それが回顧に徹した懐メロショウに終わっていないことは、フジロックでのグリーンステージの盛況ぶりが証明している。世代を超えて支持されるだけの楽曲であり、パフォーマンスを行っているということだ。そういう意味では長年清志郎を聴き込んできた今日のような観客を満足させることの方がハードルは高いのかもしれない。
定番曲は手堅く押さえ、渋いマニア好みな曲も散りばめながら、新曲で唸らせる、そんな難題はクリアできていた。久々に聴けて嬉しかったのが「忙しすぎたから」「ヒッピーに捧ぐ」「サマーツアー」(!)「ブン・ブン・ブン」「Lonely Night」なんてところ。新曲では某国の帝国主義政策を皮肉った「G.O.D.」や、幼児虐待をテーマにした「ママ、もうやめて」など、相変わらず日頃考えていることを曲にする言葉のセンスは錆付いていないようだ。苗場でも聴けた「Jump」は名曲である。
観客はさすがエキスパート揃いで、反応も良かった。「サマータイム・ブルース」で「日本の原発は安全です」と唱和が起きたのは笑ったし、「忙しすぎたから」のイントロで大歓声が上がるのはこの場所ぐらいのものだろう。ステージに次々投げ込まれるクラッカー、清志郎はバケツやホースで何度も散水。そうしたお馴染みの光景も野音に相応しい。
フジや去年のツアーで見た時よりは声が荒れているのが少々気になったが、考えたら50歳を過ぎてこれだけできる日本のミュージシャンはほとんどいない。期待に沿ったライヴを見せただけでも充分だ。中学時代からこの人のファンで良かったと思う。