水野晴郎 の方が私より大事なのねっ!
数日前のニュースなのでネタとしては少々古いが、カバヤが映画のDVDをオマケに付けたガムを発売するというお話。『水野晴郎シネマ館』と題されているように、水野晴郎氏がセレクトし、解説まで付けた全10タイトルの映画全編が収録されたDVDが付いて税込み315円は確かに画期的だ。ラインナップが渋すぎるので、去年大ヒットした食玩CDほどの売上げにどこまで迫れるかは何とも言えないものの、この値段なら「買ってみるか」と思わせるだけの魅力はある。映画の著作権って確か公開から50年だから、まだ権利の切れていないタイトルも含まれているし、DVDの製造コストはまだCDよりは高いだろう(DVD-Rの1枚あたりの小売価格は200円台のはず)から、どうやったらこんな値段で発売できるのか不思議で仕方がない。しかしこれが企業努力というものだろう。
私はかつてCDの小売業に6年間従事していた。その経験から得た印象に、「レコード業界ほど保守的な業界はない」というものがある。ひとつ当れば二番煎じ三番煎じは必ず出てくる。しかもそれが戦略的なものでなくて、業界のしきたりのような部分があって、本当に売る気があって発売するのか疑問を感じるものも少なくなかった。その最たる例が宴会ソングというジャンルで、今はどうか知らないけど、90年代半ばにはまだこういうジャンルが存在していて、暮れになると各社がこぞって発売していた。そんなニーズはとっくに消滅していたのに。
各メーカーが小売店に送ってくる注文書には大抵仕入れの提案数が付いていて、数を付けるのは構わないのだけれど、その数で仕入れるのが当然みたいな態度であるのには閉口した。当然その提案数はこんなに取れるわけないだろう=売れるわけないだろうというものなのだが、メーカー側はそれだけ仕入れてもらうことを前提に営業しているので、毎回数を削るのが一苦労だった。注文は発売の2ヶ月ぐらい前なので、肝心の音は聴けないことが多いし、宣伝量も分からない、テレビや雑誌などの露出量もこれから決まる(というか実際には決まっていてもほとんどの営業マンは知らない)、そういう状態の中でどれくらい売れるかを判断して注文数を決めるのだから慎重になるのは当たり前なのだが、レコード会社としては時間をかけて売っていくより、発売日にドンと売れる方が効率的なので初回にたくさん仕入れさせようとしていたのだな。これはオリコンのチャートの集計が出荷数(=実売数ではない)ではじかれていたことも関係あるだろう。
こういう商慣行があると、普段からCDショップに足繁く通っていて、情報に通じた人以外のニーズはすくいにくくなる。発売日をある程度過ぎると買えないものがたくさんあるのだから。実際発売日から1〜2週間も過ぎるとぴたっと売れなくなるタイトルが、邦楽作品にはたくさんあった。アイドルものなんてもっと極端で、発売日しか売れないものもあった。店としては売れないものを置いておけないので初回入荷分を売り切ったら最後発注をしない、メーカーもそれ以上生産しないという図式ができあがる。それでもCDが売れた90年代前半は良かったのだろうが、相変わらずCDが売れない売れないと言っているところを見ると、新たな購買層の開拓がなされていないのは明らかだ。
食玩CDが売れたのはマニア心を刺激したという要素も強いが、コンビニには行くけどCDショップには行かない層を取り込めたことも大きいと思う。眠れる購買層を起こしたのが食品業界だったというのは情けないし、『水野晴郎シネマ館』みたいな思い切った企画がレコード業界から出てくるのかは大いに疑問だ。