UA@渋谷公会堂
15回ある全国ツアーの東京初日。ロビーから会場内に入って、白く輝くステージがまず目を引いた。背景となるスクリーン、譜面台やアンプ、マイクのシールドなどなど、可能な限り白で統一されそこに白色の照明が当てられている。毎回ステージセットには凝るUAにしては簡素な印象だが、単純に美しいと思う。ほぼ開演時間ぴったりにバンドのメンバーがぞろぞろと現れる。ベース鈴木正人、ドラム外山明、ギター内橋和久、サックス菊地成孔、トランペット佐々木史朗、バスクラリネットとキーボード清水一登。そして最後にUA。ドレミノテレビで着ていたようなエスニックカラーのドレスだ。
やたら尖がったエスノ・ジャズとでも言うべき『SUN』発表後のツアーだけに、あの音をライヴでどう再現するかに興味は集中するわけだが、ほぼレコーディングメンバーとはいえ、ブラス3人を含めたわずか6人のシンプルな編成。それもキーボードはほんの味付け程度で、ホーン中心のアレンジはサウンドよりもUAの歌とメロディーを聴かせようとするものだったように思う。パーカッションがひとりだけとあってエスニックなポリリズムは体感できなかったし、インプロの応酬によるジャム的盛り上がりは「TORO」の後半で少し味わえたぐらいであった。その点は期待はずれと言えるかもしれない。だが多くの観客が期待しているのはUAその人の歌唱であって、それをもってすれば他に何も要らないと思えるほどに今のUAの歌は絶好調であるのも事実であった。
去年の夏ごろ何回かのステージで続いた喉の不調はすっかり克服し、声量はあるし、ファルセットの透明感も素晴らしい。一時より歌い方も変わってきたみたいで、フェイクが少なくなり明瞭な歌い方が目立った。そのせいか歌詞がダイレクトに伝わるので、UAの神秘的かつイマジネイティヴな詩の世界が目の前に広がり、圧倒された。つくづくすごいシンガーだなあと思った瞬間は数知れず。
セットリストは最新作からが中心になるのは当然のこととして、「情熱」「スカートの砂」「ミルクティー」「雲がちぎれるとき」などかつてのヒット曲もバランスよく配置されていた。ただしこれらはファンサービスとして取り入れたというよりは、新しいアレンジを施し、04年型のUAの曲として演奏されたように受け止めることができた。よく知られた曲のアレンジを変えてしまうのはわざとらしく感じることが多く、「やっぱりオリジナルの方が…」と思ってしまいがちなのだが、今回はその例に当てはまらず、ノスタルジーとは違って新鮮さを伴って聴くことができた。やはりこれは表現力の成せる業であり、曲にUAの成長もしくは進歩に同調できる普遍性があるからなのだろう。
『SUN』を「尖がった」と前述したが、それは敷居の高さを感じさせるものとほぼ同意であって、それが証拠にこのアルバムはUAとしては過去最も売れていない。個人的には失敗作だなどとは思っていないし、むしろ大傑作だと思うのだが、一般的なマーケットにおいては難解と思われても仕方ない部分は認めざるを得ない。幾重にも折り重なった楽器、SEから構成される空間は見事と言うほか無い。ただし混沌とした印象が残るのも正直なところなのだ。今回のライヴではバックの音がシンプルになったことで、歌唱そのものがクローズアップされ、その結果『SUN』の曲がいずれも美しいメロディーばかりだったことを認識させられた。これで『SUN』を聴き直す楽しみが増えたなあ。
5月21日 UA@渋谷公会堂
01. そんな空には踊る馬
02. 忘我
03. 情熱
04. 閃光
05. 世界
06. ファティマとセミラ
07. ブエノスアイレス
08. スカートの砂
09. ミルクティー
10. TORO
11. ロマンス
12. 踊る鳥と金の雨
13. LIGHTNING