[日々の泡立ち]


◇Prince / Musicology
21日に購入して以来、我が家ではヘヴィーローテーション中。前作のジャジー路線からは方向転換を図り、全編是ファンクナンバーで統一されている。前作ではドラムをJohn Blackwellに委ねていたが、今回はドラムを含めて大半の曲がプリンス一人による多重録音で制作されているのも特徴だろう。そのドラムの音がファットで実にいい。技術的にはこれといって特筆すべき点が無いオーソドックスな叩き方ながら、ツボを心得たフィルインの仕方などに一日の長を感じる。
オーソドックスと言えば、アルバム全体がオーソドックスなファンクマナーに準じたもので、良く言えば手堅い、悪く言えばこじんまりまとまっている内容。80年代には高い商業性を誇りながら、同時に唯一無二のイノベイターでもあったプリンスを知る者としては、いくらかの寂しさを感じないと言ったら嘘になってしまう。だからと言って往年の姿こそがプリンスの真髄であり、現在の彼を認めないと強がれるほど身の程知らずではない。既聴感の強い音ながら、流し放しにしていると気持ちがいいのは事実であって、40代も後半に入ったプリンスがこうして今も音楽に貪欲に取り組んでいることを知ると、えもいわれぬ感動を覚えるのである。
それはノスタルジーによるものではない。確かに革新的な音楽ではないことは認めるが、そこにはプリンスが持つファンクへの信仰に近い確信があり、ポジティブなヴァイブレーションが伝わってくるのだ。90年代以降しばらく続いた迷走期を経て、プリンスは基本に忠実であろうとする着地点を見つけた。前作、今作とここ数年続いている充実した音楽活動のモチベーションとなっているのは、自身の音楽性のあり方を明確に定義できたことによるものだろう。それが開き直りなどと言うシニシズムとは無縁であることは、この自信に満ちた音から良く分かるのだ。


ところで私が買ったのはSONYが輸入したアメリカ盤で、それにはコロンビアミュージックエンターテイメントの「LISENCED」のシールと、「輸入盤オリジナルキャンペーン」なるステッカーが貼ってあった。そのキャンペーンは購入者限定応募による抽選で20名に5,000円分の音楽ギフト券が当たるというもの。ステッカーに記載の応募ページに飛ぶと、住所氏名などの必要事項に加えていくつかのアンケートにも答えるようになっている。その項目が示すもの、その背景にあるものを考えると、改正著作権法案成立後のレコード会社が何を企んでいるのかが見え隠れしている。

Q8:今回、国内盤ではなく輸入盤を選んでご購入頂いた理由は何ですか?
Q9:あなたが洋楽CDを買われる場合、輸入盤と国内盤ではどちらを選びますか?
あなたが洋楽音楽商品のご購入を迷われた際、特典(お店でもらえるグッズ等)や施策(応募抽選の上プレゼント等)にはどの程度影響を受けますか?

このプリンスの輸入盤は、国内盤より発売が1ヶ月近く早い上に価格が1,500〜1,900円と、店頭販売のスタイルとしては従来からある平均的なものをほぼ踏襲している。それ自体は驚くようなことではないが、今回は輸入盤のリリースに先駆けてプリンスのオフィシャルサイトSONY内の専用ページからダウンロード販売も行っている。こちらは当然のこと、CDを店頭で買うより安い。さらに気が付いたのは今のところAmazon.co.jpでは取り扱っていないのだ。これらの条件から判断してこのアルバムの売れ行きやアンケート結果が、今後のSONYの方針を決めるサンプルとして使われるのだろう。使えないショップが多いので音楽ギフト券には大して惹かれなかったが、輸入盤が手に入らなくなることは消費者にとって非常に不利益であることを分からせるためにも、アンケートは提出しておいた。