Wire@渋谷club quattro



◇big picture
はて「big picture」とは?と思っていたら、客電が落ち、ステージ中央に現れたのはphewさんだったのでびっくり。よく見るとギターとベースもMOSTのメンバーではないか。ドラムは別人のようだが面子的には山本精一のいないMOSTであった。ガレージ寄りのパンクを聴かせるMOSTとは違い、暗く静かなアヴァン・ポップの趣きで、サンプラーを操りながら囁くように歌うphewの歌唱の字余り具合が和製シャンソンを思わせる部分も。アイディアだけで終わっていないところはやはりこの道20云年の貫禄か。最後の曲だけパンキッシュな咆哮を聴かせてくれた。
Melt-Banana
数年ぶりに見たけど、こんなバンドだったっけ?とにかく最高。私が鈍かったのか、ハードコアの亜流としか見てなかったかつての認識は改めねばなるまい。ハードコアの系譜から外れることはないものの、巧みなノイズギターを中心にした異形のファンク攻勢には痺れました。たたみ掛ける音の洪水は快感以外の何物でもない。フジロックで見たいなあ。これ。帰りにTシャツを買いましたぜ。
Wire
さていよいよメインのWire。前座が2組あったので彼らが登場したのは8時50分ぐらい。真っ暗なステージに何故か懐中電灯を片手に現れたのがColin Newman。アブストラクトなトラックをバックに新作のラストに収録されていた「99.9」をひとり熱唱。う、さすがに老けた。メガネをかけているせいかロバート・フリップみたいに見える。しかし頑固な芸術家肌から放射されるオーラは健在。その信念が曲げられていないことはメンバー4人が揃って音を出し始めた瞬間にはっきり確信へ変わった。4人のアンサンブルによって繰り出されるのは妥協を許さない確固たるWireサウンド。さすがアートスクールで結成された経歴は伊達ではなく、老けたとはいえ4人とも市井のオヤジ風情とは一線を画した緊張感に包まれた凛々しさがあり、もちろんその尖った音に漂う前衛性にも衰えは感じられなかった。ギターのBruce Gilbertなんてずっとアンプの方に体を向けたままメタリックなリフをガンガン弾き、とうとう演奏中は客を正視せず。かっこいい〜。
曲は最新作『SEND』からが中心なのは当然として、ファースト『PINK FLAG』からも何曲か演奏されたのは意外だった。しかしそれがノスタルジックな響きをもって披露されたのではなく、あくまでも現在進行形の一部という位置づけだったのはあっぱれ。最新作との流れに何ら違和感は無く、レパートリーのひとつに過ぎないとでも言いたげな演奏だった。そうでなければWireではないのだけれど。
アンコール2回を含めても演奏は正味1時間ほど。あっという間に終わってしまった印象だが、扇情的なリフ、スリリングなビート、どこを取っても無駄の無い中身の濃さには大満足。欲を言えば「I Am The Fly」を聴きたかったのは事実だが、これ以上望むのは罰当たりというもの。またの機会を待つとしよう。