ぐるぐる回る2010@埼玉スタジアム



 昨年、一昨年と新宿の芸能花伝舎(旧淀橋第三小学校)で行われた「廃校フェス」が、今年は会場を埼玉スタジアムへ移し、タイトルも「ぐるぐる回る」と変更され開催された。
 スタジアムのコンコース各所にステージやブースを多数設置。参加者はそのコンコースをぐるぐると回りながら楽しむというコンセプト。それ自体楽しげだったのと、何といっても住所不定無職を始め、インディー系のバンドが大挙出演するというので出向いた次第。
 自宅から電車で2時間弱という距離はちょっとした旅行気分も味わえる(笑)。予想以上の旅情を味わい、会場に辿り着いたのは住所不定無職のライヴ開始5分前だった。

 3月に見たレコ発ライヴ以来の住所不定無職。昼の12時台のライヴはさすがに経験が無いそうで、しかもこのロケーション。このステージのトップバッターでもあった。そのため感覚が掴めずやりにくそうなのは見ていても分かった。特に最初の方は緊張もあったのか、固さが感じられた。
 1曲目だけは初めて聴く曲だったが、ライヴの構成は過去に見たものと大きくは違わない。セットリストを列挙すると、順不同で「ラナラナラナ」「ひまらや」「I wanna be your BEATLES」「農家の悲劇」「恋のテレフォンナンバー!リンリンリンッ!」「あ・い・つ・はファニーボーイ」「あの娘のaiko」「住所不定無職のテーマ」「オケレケレペプー」といったところ。
 「恋のテレフォンナンバー〜」でいつもはザ・ゾンビーズ子がギターソロを弾きながら客席へ突っ込むのだが、それは無し。この辺りまではやや消化不良な印象が残った。しかしユリナがギター、ゾンビーズ子がドラムへシフトチェンジしてからは徐々に登り調子に。

 ステージのすぐ隣は通路なので人の往来は激しく、ライヴハウスのような密室性があるわけでなく、かといって天井の低いコンコースでは野外フェスのような開放感も無い状況に、観客の方もどうすればいいのかとまどいがあったのだと思う。故に前半はダイレクトな反応が返せなかったのだが、「あの娘のaiko」を始める前にヨーコが曲の紹介を間違える天然ボケを炸裂させた時に、場の空気が明らかに和んだ。怪我の功名ってやつだ。
 この辺りからバンドと観客の間に了解事項が生まれたように思う。「テーマ」や「オケレケレペプー」は住所らしい破天荒さが現れていて、溜飲が下がった思い。観客の反応も熱いものがあった。この状況がもう少し早く生まれていればもっと良かったな。

 ところでゾンビーズ子が弾いていたギターはグレッチのJupiter Thunderbirdだよな。ペイズリー柄テレキャスターから代えたのだろうか。このバンドは皆変形ギターを弾きたがるのが面白い。


 3ヶ月ぶりの住所不定無職を堪能したので、後はのんびりと。全部で10箇所以上あるステージと、物販やアートの展示を行うブースが設置されているコンコースをぐるっと1周してみる。「文化祭のようなロックフェス」が基本コンセプトだそうで、まるで文化祭に紛れ込んだような楽しさだった。フジロックのヘヴンの雰囲気をもっと文科系学生ののりにしたとでも言うか。ただプロのイベンターの手は入っていないようで、手作りの感覚は随所に現れていたし、興行よりも発表の場を作りたいという意思が感じられた。大規模な夏フェスには見られないアート指向のインディー魂が新鮮だった。
 日差しはそれほどでもないものの、時折雨がぱらついたりして非常に蒸し暑いのでビールで喉を潤しながらあっちへ行ったり、こっちへ行ったり。ライヴはほとんどチラ見で、オシリペンペンズ、西宮灰鼠、neco眠るキツネの嫁入りウミネコサウンズ、七尾旅人などを見た。
 この中で全編を見ることができたのはneco眠るのみ。ファンク、ダブから日本民謡メレンゲあたりまでごちゃまぜにして放り投げてくる、独自のダンス音楽が最高。CDでも楽しめるけれど、このバンドはライヴでこそ本領を発揮するなあと改めて認識。

 後は3曲ほどしか見られなかったが、ウミネコサウンズも良かった。シニカルにならず、虚飾にも色目を使わず、ジャンルに埋没することもなく、他の何者でもない自身の言葉、自身の世界観を音楽にしているという印象。イノセントなミュージシャンだなあと感心しきり。すっかり気に入ったので帰宅後CDを購入した。
 フェスは夜8時過ぎまで続いたようだが、私は野音UAのライヴがあったので午後4時過ぎ、七尾旅人の途中で退出。踊ろうマチルダとか渋さ知らズとか、この後も楽しみなアクトが盛りだくさんで後ろ髪を思いっきり引っ張られたのだが、仕方ない。非常に面白いコンセプトのフェスだったので、来年も開催されるのであれば是非足を運びたい。