The Who@横浜アリーナ

k_turner2008-11-14



 私が見たのは確かにザ・フーだった。BGMがフェード・アウトし客電が落ちると、勿体をつけた出囃子も無くメンバーがダラダラとステージに現れる。おおっ、本物だ!まずロジャーが「Yokohama!」と挨拶。ピートが「Hello, New York!」とオヤジギャグをかました後、あのコードが鳴らされた。この20数年間に何百回と聴いた「I Can't Explain」。
 ムーニーはおろか、ジョンまでいないバンドをザ・フーとは認めたくない気持ちは今でもある。とは言ってもやっぱりファンなので、演奏が始まれば飛び跳ねて喜び、会場を埋めた元ロック少年達と一緒になってサビを唱和している私。5年ほど前に東京ドームでストーンズを見た時に、沈黙する周囲と裏腹にひとりだけ盛り上がっていたあの違和感を味わうことが無かったのは嬉しかった。30〜40代のオヤジが中心とはいえ、ストーンズの時よりは若い客が混じっていたし。
 当然のことながらセットリストは往年の曲が目白押し。ファンもそれを望んでいるのは明白だ。ステージ後方のスクリーンには若い頃のメンバーやメモラビアが映し出され、さながら懐メロショウの趣きだったのは仕方の無いところ。
 しかしベスト盤にいつも選曲される3曲が終わって、「Fragments」が始まった時にグッと来るものがあった。それまで割りとラフな演奏が続いていたのに、2年前に出た新作『Endless Wire』に収録されているこの曲になったら、バンドが真剣に取り組んでいたのだ。本当に聴かせたいのはこれだと言わんばかりに。
 イントロは「Baba O'Riley」にそっくりだし、曲そのものに新機軸と呼べるような要素は薄い。それでも現在のザ・フーがはるばる日本まで来て演奏するだけのモチベーションを保っていられる理由を見た気がした。60〜70年代の現役当時と比較すればかなり向上したとはいえ、日本におけるフーの一般的な人気、知名度は今でも低い。集金ツアーと揶揄されることも多い彼らだが、単に稼ぎたいだけならわざわざ日本まで来る必要はないだろう。しかるに24年ぶりに新作を発表し、さらに次回作の予定もあり、極東の島国までやって来たザ・フー。屍を晒しに来てるんじゃないぞという気概が感じられた。
 さすがに新曲は「Fragments」1曲に止め、その後は往時の代表曲が次々に。「Sister Disco」でのロジャーの力強いシャウトに感激し、後半をインプロ・ジャムに改作した「My Generation」から「無法の世界」へと畳み掛けた流れには燃えた。低いながらもピートのジャンプも拝めたし。
 正直なところお約束の嵐ではある。ピートがウインドミル奏法でストラトを掻き鳴らし、ロジャーがマイクをブンブンと振り回せば、それだけでワッと歓声が沸く。吉本新喜劇のギャグと変わらない。そんなことは百も承知でやっているのだろうが、ピートもロジャーも観客に媚びている風ではなかった。敢えてエンターテインしようとする様子は無く、これしかできない不器用さすら感じられた。
 ステージセットは会場の規模を考えれば質素なもので、大きなスクリーンを用意しているのにメンバーが大写しになることは一度もなかった。背景として曲毎に画像や映像が流れただけだ。そのシンプルさに彼らの頑固な姿勢を見た思い。
 リズム隊の2人のプレイも必要以上に出しゃばらず、要求に答えたという感じ。キース・ムーンジョン・エントウィッスルとは比較にならないことを各々自覚しているようで、特にベースのピノ・パラディーノなどいるのかいないのか分からなくなる瞬間すらあったほど地味だった。ザック・スターキーも評判通り的確な仕事で、ムーニーの不在による違和感を緩和させることに成功していたと思う。
 アンコールでの『Tommy』短縮メドレーは、『Tommy』にさほど思い入れの無い私でも引き込まれるものがあった。それが終わってステージには満足げな表情のピートとロジャーが残り、「来てくれてありがとう」と観客に感謝を表明。それはこちらの台詞でもある。最後の最後に2人だけでまたしても新曲の「Tea & Theatre」でライヴは締め括られた。
 今の彼らが第一線に鎮座する現役バリバリのバンドだとは、口が裂けても言えない。日夜実験を繰り返し、ライヴハウスでしのぎを削る若いバンドがたくさんいることを知っているから。ただし60をとっくに過ぎ、サラリーマンなら定年退職している歳のピートやロジャーが披露する「My Generation」にリアリティがあったのも事実。それが確認できただけで充分だ。
 4年前の初来日は訳の分からないイベントへの出演というだけで行く気が失せたし、オリジナル・メンバーが2人しかいないことが決定打であって、結局見に行かなかった。そのことに後悔もしていない。
 しかし初の単独来日であり、ピートもロジャーも還暦を迎えた今回はさすがに見ておかないと…と思った。今回の来日でチケットが完売したのは17日に行われる武道館だけなので、やはり来日はこれで最後だろう。随分遅くなってしまったけれどザ・フーを名乗って許されるバンドを見ることができ、悔いは無い。

Set list
Can't Explain
The Seeker
Anyway Anyhow Anywhere
Fragments
Who Are You
Behind Blue Eyes
Relay
Sister Disco
Baba O'Riley
Eminence Front
5:15
Love Reign O'er Me
My Generation
Won't Get Fooled Again

Encores:

Pinball Wizard
Amazing Journey
Sparks
See Me, Feel Me
Tea and Teatre

The Who Official siteより