石橋英子×アチコ@三軒茶屋GRAPEFRUIT MOON

k_turner2008-10-11



 先日タワーレコードへ行った時に、ディスプレイされていた印象的なアートワークが目に止まり、何となく惹かれて試聴してみたところ一発KO。こんな出会いで興味を持ったヴォーカルとピアノのデュオ。帰宅後MySpaceのページを見つけ、その翌日にはワンマンライヴのチケットを予約していた。
 10/8に発売されたこのデュオのセカンド・アルバム『サマードレス』のレコ発ライヴである。この2人はそれぞれソロや各種ユニットで経歴を積んだベテラン・ミュージシャンのようだが、極力先入観の無い状態でライヴが見たかったので、予備知識はあえて仕入れずに会場へ向かった。尤も初めて聴いてから今日まで4日ほどしか無かったので、情報を収集するのに充分な時間があったとは言えないが。
 ステージには本当にこの2人しか上がらなかった。石橋英子がピアノを弾き、アチコが歌う非常にシンプルな編成。曲によってヴォーカルにディレイをかけたり、ループさせたり、音響的なエフェクトを使ってはいた。またアチコが何曲かでパーカッションを加えたり、1曲のみドラムを叩きながら歌ったりもしたが、基本的にはピアノをバックに歌を聴かせるというものだった。
 事前に聴いていたレコーディング作品では歌とピアノの力関係が均衡を保ちつつ、禁欲的と言ってもいい淡いサウンドスケープを構築している印象だったが、ライヴではアチコの歌唱が前面に出ていたように思う。アチコが観客に向かって歌っていたのに対し、石橋英子はやや背を向ける形でピアノを弾いていたことが象徴的だ。それも充分納得できるほど、アチコの歌声は肉体的で力強く、独特の透明感があった。伸び伸びとした高音はもちろん、ファルセット部分で少し枯れ気味になる瞬間に何度も震えを覚えたほどだ。まるでフィルターでもかかっているかのようなハスキー・ヴォイスは圧巻だった。クラシック・ピアノの素養があると思われる石橋英子の鍵盤さばきは非常に達者なもので、それだけに伴奏に徹して歌を生かす方が得策と判断があったのかもしれない。
 普段ロックンロールに至上価値を見出したリスニング・ライフを送っている私にとっては、全く予測できないコード進行の曲ばかりだった。下手に専門用語を使って説明しようとするとボロが出るのは間違いないので、知ったかぶりは止めておいた方が良いだろう。ただし音楽として良質なものであることを理解できるだけの感性は持ち合わせているつもりだ。
 このデュオが奏でる音楽はアンビエントな佇まいがありながら、無機質ではない。どこか人懐っこさがあり、親しみやすいのだ。アンコールで童謡の「赤とんぼ」を披露していたが、声楽調でなく正統派の童謡でもない、オリジナルな「赤とんぼ」であって、実に素晴らしかった。タワレコの試聴機で数曲を聴いた時に、直感的にライヴが見たいと思った判断は間違っていなかった。