Hi-TIME GIG!! vol.11@武蔵境STATTO



 2006年のこの時代に、未だ有人改札で対応している西武多摩川線に乗り、目指すは武蔵境。西武多摩川線なんて武蔵境へ行く時ぐらいしか乗らないけど、客が1車両に10人ぐらいしか乗っていなくて、物悲しい気分になる。武蔵境に到着したら妙に賑わっているので何かと思えば、駅前の商店街で何やらお祭りを開催していた。見物客が道を塞いでしまっており、仕方がないので住宅街を通る裏道から抜けたら、嘘の様に閑散とした北大通りが目の前に広がる。これが武蔵野の光景だね。

 のどかな武蔵境にその名を馳せる狂気の発信源、STATTOで産湯を使ったとも言えるTHEEE BAT。何とSTATTOで2日連続のライヴで、昨日はキーボードを加えたスペシャル・セットでやったとか。見たかったなあ。

 この日は当初出演する予定だったSTAND BY MEの代役ということもあって、1番目の出演で、6時40分ぐらいには演奏がスタート。それはいいのだが、まだ観客がほとんどいなくて可哀想だった。まばらな人の前では演奏する側もやりにくかったのか、最初はビートにいつもの重厚さが感じられなかったが、3〜4曲目ぐらいから調子を取り戻した様子で一安心。

 THEEE BATはリフを重ねていってカオスを生むタイプの曲が多いので、同じ曲を演奏してもいつも同じ出来という訳にはいかない。あるポイントを掴み損ねると、あれ?という感じで印象が変わってしまう。常に最上の演奏を提供するのが理想だろうが、ミュージシャンだって人間なので時には本来の姿に届かないこともあるだろう。だからこそ生の演奏は楽しいのだが。

 今まで見たライヴのベストとは言わないが、不利な状況の中での演奏であることを考えれば充分納得できるものであった。THEEE BATはこの先もライヴの予定がびっしりなので、どんな展開があるのか楽しみだし、都合の許す限り見に行きたいと思う。
 例によって私はカメラを携えて見に行っていたのだが、THEEE BATの演奏中のステージは非常に暗く、辛うじて点いているのがSTATTO特有の点滅する照明だけだったので、まだ現像もしていないけど写真の写り具合はかなり悪いことが想像される。予め謝っておこう。ごめんなさいね。

  • THE MIDNIGHTS


 久しぶりの感じはあるけど、何度も見ているバンド。日本語詞のパンク・バンドで、良い意味でも悪い意味でも変わっていない。30年ほど前に起きたパンク・ムーヴメントは、今なおこうしたバンドを輩出し続けているのだから、せめて生存しているジョン・ライドンなどは責任を感じるべきだよなあ。彼らに関して言うなら、もの凄くキャッチーなキラー・チューンがあるといいのになと思う。

  • THE MOON LIGHTS

 このバンドも楽しみにしていたのだ。初めて見たのはtomoko BATの日記に貼られていたYouTubeの映像で、リアルなマージービート・サウンドに一発で魅了された。昔NEATBEATSを初めて見た時と同様の衝撃があった。
 因みにその映像がこれ↓
   「COME ON BACK」
 他にも「キスがしたい」「秘密のデート」の映像を見ることが出来る。演奏や曲も良いが、映像作品としての出来も素晴らしい。カメラ1台でこれだけ撮れるアイディアと技術はすごいと思う。私はもう何度も見てます。

 実際のライヴを見るのはこの日が初めてで、映像で見たのとは既にメンバーが変わっているものの、基本は同じビートバンド。従って彼らが演奏を始めた途端、STATTOがキャヴァーン・クラブへ様変わりする。いわば反則技のオンパレードであって、こんな音を出されて楽しくないはずがない。私にとってのロックンロールの基本は、こういうバンドの中にあるのだから。

 ただステージ上での振舞いがラフ過ぎるので、きっちり演出されたショウも見てみたいと、ブライアン・エプスタインのような注文を付けておく。ベースにトラブルがあって中断したり、チューニングをやり直すのに中断したり、散漫さが流れを澱ませていたのが残念だった。この日だけのことだったかもしれないし、内輪のノリを加速させ易いSTATTOならではだったのかもしれないけど。

 ゴフィン/キングの代表曲「TAKE GOOD CARE OF MY BABY」がいかにもの演奏で良かった。しかし「MY BABY」ではなく「YOUR BABY」と歌っていたのは何かのこだわりなのだろうか。

  • THE HOT ROCKS


 このイベントはこのバンドの企画だった。100メートル先から見てもミュージシャンだと分かるオーラを発散しているトリオで、見た目から想像できる通りのサウンド。ロッカーの見た目は重要だということだ。60年代のロックから、パンク以降、80年代の日本のロックなども経由した感があり、ロックンロール・ハイスクールなら優等生間違いなしである。

 このバンドもどうしたって嫌いにはなれない。そのバックグラウンドにあるものが私も全部好きなものだからだ。故に皆まで言わなくても分かってしまうのだ。大音量でけたたましく演奏する姿を、どうしても温かい眼差しで見守ってしまった。


 ここでステージ上が様変わり。爆音でノイジーな音を出すバンドが続いた後で、こんなクロージングが待っていたとは。
 全てアコースティック編成のトリオで、ギター2本、時にマンドリン、そしてパーカッションと肉声が彼らの全てだ。それまでのバンドと比較すると余りにも無防備な編成だが、出てくる音はエレクトリック編成よりもずっと多彩で驚いた。電気的な増幅やエフェクトが無くても、弾き方、叩き方ひとつでこんなに多種多様の音が出せるなんて。パーカッションの人が、ヴォーカルをサポートすべく抑揚をつけてリズムを刻んでいただけでなく、シンバルやスネアのスタンドまで叩いているのを見て、この人たちは只者ではないぞと思った。

 基本的にはブルージーな歌を聴かせる演奏であって、塩辛いだみ声で歌うヴォーカルが染みる。もう一方のギタリストもツボを押さえた演奏で、時に付けるハーモニーも憎らしいぐらいに決まっている。オリジナル曲はもちろん、アンコールで演奏した「Slippin' and Slidin'」や「Stand by Me」などのベタなスタンダードも、彼らのものとして消化されていて素晴らしいものであった。

 「電気が無くてもロックンロールはできるんだぜ!」との台詞は全く仰る通り。実は私も大学生の時に生楽器だけで演奏するサークルに所属していて、そのサークルはブルーグラスをやりたかった先輩が立ち上げたものだったのだが、私はアコースティックでロックンロールがやりたくてそこに入っていた。まだアンプラグドという言葉も無かった時代だったし、アナコンダほどの演奏力もアイディアも無かったので周りからは理解を得られなかったけれど、あの時このバンドがいてくれたらなあと、思わず感傷的な気分になってしまった。私がやりたかったのは正にこういうことだったのだよ。

 ライヴが終わってメンバーと少し話す機会を得て、その時初めて知ったのだが、この日はベーシストが都合で来られなかったために特別にアコースティックで演奏したそうで、普段はエレクトリックのバンド編成でやっているとのこと。ということは余興でこれだけできてしまうのだから、普段のライヴもきっと良いものなのだろう。未知の才能はあちこちに潜んでいるものである。


【9/12写真追加】
 予告した通り、THEEE BATの写真は極端に暗いものになってしまいました。これでも辛うじて見られるものだけチョイスしたんですけどねえ。ただバンドの雰囲気には合っているかも。何が写っているのかは判然としないだろうが。