EXERCISE vol.9@高円寺Club Liner



 Club Linerは昨年オープンした新しいハコで、私も足を踏み入れるのは初めてだった。フルハウスになっても100人は入れないであろう小規模の店である。縦に長く、西新宿にあった頃のLOFTを小さくした感じ。そういえば床も市松模様だな。以下出演順に感想。

  • GOD'S GUTS


 LESS THAN TVの谷口氏率いる轟音トリオ。懐かしい。いや、そう思うのは私がこのバンドを見るのが7〜8年ぶりだからであって、その間も彼らは地道に活動していたようだ。
 爆音でノイズを撒き散らすギターを中心としたオルタナサウンドは健在で、時に妙にメランコリックなメロディが出てくることからも、どうしてもDinosaur Jr.の影がちらつく。トリオだし。お陰でDinosaur Jr.が来日中であることを思い出したり。
 グランジもすっかり古典であり、懐古の対象となった今、スタイルの維持だけでバンドを続けることは困難と思われる。Dinosaur Jr.を筆頭に類似バンドの存在はあろうとも、GOD'S GUTSが続いている理由を考えているうちにステージが終わってしまった。彼らとて二番煎じと言われることは本望ではないはずだが。

  • RINTO


 初めて見た。ヴォーカルの歌い方や歌メロは明らかにハード・コアを踏襲しているのに、リフを中心に弾くギターとドラムのパターンは明らかにハード・コアの典型から離れよう、離れようとしていたのが大変ユニーク。曲によってはファンキーとさえ言えるグルーヴがあった。技術的にも思わず聴き入る上手さが。

  • A PAGE OF PUNK


 こちらも初めて見るバンド。今度はOi系のパンクで、1曲が数十秒からせいぜい1分程度と短く、「1、2、3、4、1、2、3、4!!」のカウントと言うよりかけ声と共に次々に演奏が続く。やたらと唱和を強要するような部分はなく、サーカスでも見ているようで楽しい。「ファッキュー!」と「オイ!」以外の語彙を必要としないことに、むしろ潔さを感じた。

  • NYLON


 そしてNYLON。もちろんこの日の最大のお目当てのバンドだ。関西ではどうだか知らないが、少なくとも東京のライヴでこれだけ毛色の違うバンドとステージを共にすることは無いので、どうなるのだろうと期待と不安が入り混じった中で演奏がスタート。以降、時間にしたら30分程度のことだったと思う。しかし私には数時間にも感じられる濃密なライヴであり、彼らの持つ懐の深い、しなやかな音に触れることでまるで洗礼を受けているような錯覚を覚えた。それは宗教的とも言える体験だったのだ。いや、大げさでなく。

 NYLONとてその音楽形態は彼らが独自に編み出したものではなく、初期のDr. Feelgoodだったり、Jamだったり、Ramonesだったり、Barracudasだったり、多くの先達の影響下にある音楽をやっていることは明らかだ。しかし立川談志家元が言ったように「内容が形式を超えていること」が天才の定義だとするならば、NYLONは間違いなく天才の部類に入ることをこの日実感した。

 ロックも既に半世紀以上の歴史があるそうで、その間にはもうこれ以上分割できないほどにジャンルの細分化が進んだ。まるでライブドア株のようなもので、総体としては巨大なロックも、ジャンルひとつあたりは実にチマチマとしてしまい、住み分けされた小さなコロニーの中でのみ通用する「歴史的傑作」しか生まれなくなって久しい。
 私個人はNYLONが影響を受けたと思われるバンドは皆好きだし、NYLONの音楽スタイルも無論好きだ。またライヴにおける特にシマノのエキセントリックなパフォーマンスの特異性は誰もが指摘するところでもある。私が彼らを強力に支持し、東京でライヴがあれば必ず足を運ぶのは、そうしたスタイルを愛しているからだと無意識ながら思っていたのだが、どうやらそれは誤解だったようだ。
 NYLONはそうした表面的な部分だけを取り沙汰されるべきバンドではなく、もっと本質的な何かを表現するために、たまたまあのスタイルを使っているに過ぎないのだと思う。あの4人が一丸となった時に出される音、そして計算の行き届いたステージングによって表現される内容は、形式の存在など超えている。

 例えばレゲエという音楽はあのリズム・パターンによってレゲエと認識される。ではあのリズム・パターンさえ使っていれば誰もがボブ・マーリーに比肩しうるアーティストかというとそうではない。世にビートルズの影響下にあるバンドは無数にある。しかしビートルズのスタイルで演奏するバンドで、ビートルズ以上の評価を得たバンドは皆無と言っていい。スタイルを発明した人はオリジネイターとして賞賛されるべきではあろう。しかしストーンズビーチ・ボーイズは何故チャック・ベリーより多くのレコードを売ることができたかを考えれば、スタイルが表現の媒介でしかないことが分かる。その背景には人種的な偏見などの社会的な問題や、レコード会社、プロダクションの営業力も絡んでくることなので単純な比較は乱暴かもしれない。ただ40年以上かかって確立された評価はそう簡単に覆されるものではないだろう。念のために言っておくが、私はチャック・ベリーが大好きですよ。
 NYLONの前に出演した3バンドを否定するつもりはない。対バンということでどうしても比較してしまうのだが、彼らは彼らのスタイルを選択し、表現していることは認めるからだ。いかにラウドであるか、スピードが速いか、ヘヴィーであるかを価値基準とした場合、NYLONの古めかしいスタイルは明らかに不利であるはずなのに、この日のこの会場を最もホットにしたのはNYLONだった。誰もが音楽の機能や形式を聴くためにライヴを見に来ているのではないのである。NYLONならきっとジャズのフェスティバルでも、テクノのレイヴパーティーでも、観客を沸かすことができると思う。

 この日の選曲は王道の代表曲と新曲をバランス良く配置したもので、現在のNYLONの立ち位置を伝えるとともに、NYLONというバンドを最も効果的に現したものだったと思う。彼らのライヴはもう10回以上見ているのに、改めて凄まじいバンドであることに気付かされた。というか鈍すぎるぞ、わし。

  • DERANGEMENTS


 この日の企画をしたバンド。よくぞNYLONを呼んでくれたと感謝したい。
 メロディアスなハードコアとでも形容したら良いだろうか。メロコアと略してしまうと意味が変わるので、あくまでもメロディアスなハードコアであることに注意したい。風貌に似つかわしくなく、破壊衝動を素直に実行する奴らで、特にギタリストはドラムセットに突っ込んだり、アンプによじ登ったり、青洟を垂らしたりと、破滅的なパフォーマンスが目立った。ただそれは単に奇を衒おうとしているふしもあり、シマノのようにそうすることでしか表現できない何かがあるようには見えなかった。また比較してしまってゴメンよ。
 NYLONのライヴで骨抜きにされてしまっていた後だったので、正直なところ冷静な評価とは言えないかもしれない。一応カメラは向けたものの、どうしても適当にシャッターを切ってしまっていたことからも意欲が薄れていたことがわかる。