人生は野菜スープ



 随分と過ごしやすい気温になってきたので、スープを作ろうと思い立つ。
 鍋に1㍑弱のお湯を沸かし、固形のコンソメの素を3つ投入。弱火にしてから1/2カットのキャベツを適当に切り、鍋に落とす。1ヶ月ほど前までこのサイズで58円ぐらいで売っていたキャベツだが、最近は100円前後まで値上がりしてきた。それでも農家の方々にとっては適正価格に近づいただけだろうし、今でも充分安いと思う。貧乏人にはありがたい野菜だ。
 3本100円で売っていたグリーンアスパラの袴を取り、これまた適当に切って、鍋に追加投入。鍋が再び煮立ってきたあたりで、1㌢幅程度に切ったベーコン4枚も放り込む。ついでに冷蔵庫にあった飲み残しの白ワイン200ccほども入れてやる。ベーコンから塩が流れ出るのでこれだけでも味は付くが、物足りない場合は塩コショウで好みの味に整える。
 正味20分程度、原価300円ちょっと(ワイン除く)で出来上がり。トマトが入ってないのでミネストローネではないし、ジャガイモが入ってないのでポトフとも言えない。名称の分からないスープだが、これで4食はいける。これからの季節はこの手で食費を削るのだ。


 昨日の昼過ぎ、電話あり。3日ほど前にネットから求人のエントリーをしていた会社だった。「では明日(つまり今日)面接を」ということになり、「場所は新宿を予定していますが、時間を調整しますのでまた後ほど連絡します」と言って担当の女性は切った。
 その後6時を過ぎても連絡が無いのでさすがに不安になり、ネットで調べた新宿本社へ電話。その場に女性担当者がおらず、折り返しにしてもらう。30分後、今度は携帯に担当女性から電話。「すいませ〜ん、留守電に入れておいたんですけど…」。入ってないから電話したんだよ。
 その担当女性は月末なので予定が立て込んでいて(こちらの知ったことではない)、新宿に戻る時間が無いそうで、どうしても埼玉の支社まで面接に来て欲しいと言う。昼と話が違うじゃないか。そうは言ってもこちらは雇われるのを待つ弱い立場である。「留守電は後で消しといてくださいね」とうそぶくのにもムカっときたが、仕方がないので片道2時間と往復交通費1,400円をかけて、今日埼玉の某市まで行って来た。
 「場所が分かりにくいので駅まで迎えに行きます」と言っていた担当女史は、駅にはいなかった。会社の連絡先を聞いていなかったので、昨夜携帯に着信のあった番号にかけてみると留守電。どうなってるんだと思いながら一応メッセージを残して待っていると、面接を予定していた時間になった頃携帯に連絡が入る。「今から言う通りに歩いてきてください。すぐですから」迎えに来るんじゃなかったのかよ。
 駅から5分足らずの場所(まあ、近いのは確かだ)にあったその埼玉支社はえらく貧相なオフィスで、6人ほどの従業員がいるだけだった。パーテーションと呼ぶにはいささか抵抗のあるつい立で仕切られた応接スペースでは、既に別の人が面接を受けていた。丸見え、丸聞こえである。
 もう一つ空いていた応接卓に座らされると、経歴カードの記入を求められた。写真付きの履歴書、職務経歴書は持参しているのに、同じようなことをもう一度書かされるのだ。書き終えると担当女史がやって来て、自分の非礼を詫びるでもなく、本題に入った。
 この時点で応募した仕事が派遣であることが判明。募集要項には応募先も勤務先もこの会社になっていたので直接雇用だと思っていたのに。先ほど書いた経歴カードは派遣会社(つまりこの会社)の登録用であった。しかも募集要項には事務職として出ていたのに、経理や庶務もやってもらいたいと言い出す。それらの仕事がやりたくないわけではないが、経験が無いし、一般的にそういう仕事は女性を求める企業が多いはずだが、男でしかもこの歳でも大丈夫なのかを問うと、「先様も本当は女性を求めておられるのですが、女性でこれだけの事務スキルのある方となるとなかなかいないんですよ〜。欠員の補充が急務なので、この際男性でも仕方がないとは仰っています」だとよ。
 そんな嫌々採用されるところでは働きたくないので、既に頭の中は往復の4時間と交通費を返して欲しい気持ちで一杯だった。後は適当に返事をしてやり過ごし、貧相なオフィスを後にした。2度と来ねぇーよ!(AA略)
 この歳になると直接雇用の道などほとんど無く、背に腹は代えられないので不安定な派遣でもやむを得ず、私も5社ほどの派遣会社に登録している。今日の会社は規模が小さい方だし、かなり酷い対応が目に付いたが、でも派遣会社なんてどこも似たり寄ったりだ。5社の中でこの会社なら信頼できると思ったのは1社だけで、その会社だけはこちらの事情を汲んでくれるし、担当者も密に連絡をくれ、対応もしっかりしている。ただだからと言って必ずしもこちらの希望通りの職が見つかるとは限らない。あくまで派遣会社と登録派遣スタッフとの関係が納得できる形になっている会社が5社に1社あるというだけのことだ。
 最新の統計によると派遣スタッフ実稼動者数は30万人で、前年比111%で伸びているというデータがある。しかしこれは主要109社に限ったデータであり、実際の派遣会社はこれよりはるかに多く存在する。マイナーな派遣会社にも登録スタッフは存在するわけで、仕事を紹介されるまでに幾多の不満ある対応と日々向き合っているはずだ。