k_turner2004-12-16



 一日遅れの日記。15日の出来事を今さら。
 名古屋へ行くため会社は有給を取っていたので、8時過ぎにゆっくり起きる。久しぶりにゆっくり寝たのに目覚めは悪い。昨日(14日)のエルヴィス・コステロ東京最終公演のふがいない出来が尾を引いて、気分が最悪だからだ。
 朝食を取りながらメールをチェックしていたら、Elvis Costello Home PageのJohn Everinghamからのメールを発見。昨夜送った14日のセットリスト情報に対する返信で、タイムスタンプが私の送信後わずか3時間程度だったことにも驚いたが、内容はさらに唸らされるものであった。セットリストを送る時に、簡単にその日の内容や感想も添えているのだが、14日に送ったメールで「今日はエルヴィスの調子が悪くて、演奏も良くなくてさあ、ひどいものだったよ」などと私は愚痴ってしまっていたのだ。それに対するJohnの返信は「あまりやらない曲ばかりだから演奏が上手くいかなかったのも無理はないと思う。今日の名古屋はもっとエキサイティングなショウになるよう祈ってるよ」というものだった。さすが英語圏の人間は発想がポジティヴだ。偉いなあと思ったのは、私が言っていることを何一つ否定していないことだ。Johnは14日のライヴを見ていないので当然でもあるのだが、あくまでも私の意見は尊重しつつ、将来に目を向けさせようとしている。会ったこともないニュージーランド人にものを教わる不思議を感じた。でもお陰で気分は持ち直し、筆が進まないので書きかけになっていたbeatleg誌掲載用の14日分レポートを仕上げることができた。その他メールの処理などしているうちにもう昼だ。
 諸々の準備を済ませ、1時過ぎに家を出る。2時33分東京発のぞみで名古屋へ。4時15分に定刻通り名古屋着。中央本線に乗り換え、2駅先の鶴舞へ。まだ開場時間には早いが、8年ぶりの今日の会場、愛知勤労会館の場所を確認するため下見に。96年にここへ来た時は、アトラクションズの最終公演だった。会場に近づくにつれ、8年前の記憶が呼び覚まされる。会場周辺には誰もおらず閑散としていた。この時点で4時40分ぐらいだったが、エルヴィス一行は到着していたのだろうか。
 会場を確認したので、今度は地下鉄で1駅の上前津まで。開演時間まで2時間ほどあるので、その間を利用してレコード屋をチェックするためだ。
 この移動中に携帯にメールが届いていることに気付く。送り主は熊ちゃんで、エルヴィスは2時15分の新幹線で名古屋へ向かったとのこと。私の1本前だったか。くっそー、って何が悔しいんだ(笑)。名古屋駅到着が20分ほどしか違わないということは、勤労会館でばったりという可能性もあったと思ったが、後の祭り。しかし自分は名古屋へ遠征するわけではないのに、こういうことを調べ上げる熊ちゃんはさすがだ。
 上前津に到着後、まず名古屋へ来ると必ず立ち寄るサウンド・ベイ・リパブリックへ。在庫は中古と新品が半々で、アナログ盤もちゃんと置いてあり、基本的にオール・ジャンルを扱っている。ただし闇雲に何でもあるのではなく、その傾向が私の趣味にフィットしているので好きなレコード屋だ。エルヴィスの来名を記念してのことだろう、LP棚のある壁には『Almost Blue』の解説付きサイン入りプロモ盤と『El Mocambo』がディスプレイされていた。7インチ盤のところにも「I Can't Stand Up For Falling Down」の日本盤が飾られている。こういうことをしてくれるから好きなのだ。エルヴィスに限らず、パンクやガレージの在庫も充実しているし、レゲエやブルース、ソウル、R&B、ジャズも面白いものが置いてある。エルヴィスも連れてきてあげたいぐらいだ。因みに『Almost Blue』の解説プロモは8,000円。私は10年ほど前にこれを1万2,000円ぐらいで買ったはず。『El Mocambo』は3,500円。確認しなかったけど、これも本物なら安い。
 7インチコーナーにはストーンズだけで50枚ほど在庫があり、ドイツ盤やスペイン盤など見たこともないジャケットが多数で興奮。どこかのコレクターが手放したのだろう。デッカのEP3タイトルも複数枚の在庫があり、オープンデッカでジャケットもVG+〜EX-程度で3,500円、ボックスドデッカでも2,000円弱というのは破格の安値ではないのか?私はストーンズのコレクターではないので相場には疎いため、見当違いなことを言っているかもしれないが。安いなあとは思っても、そうそう手が出せるはずもなく、私が購入したのは83年に当時日本法人のあったロンドンが出した7インチ5タイトルのフルセット。ジャケットはほぼミントで各800円だったので、美味しい買い物だった。この時代のストーンズのシングルは意外に珍しい。こういうものは海外のコレクターには人気があるのだ。あ、転売はしようとは思っていないので念のため。
 他にはThe Kaleidoscopeの『Side Trips』、Dan Hicksの『Original Recordings』(以上Edsel盤LP)、Rhino編集のウエスタン・スウィングもの、Trojan編集のPioneersのベスト(以上CD)などを購入。7インチ以外は期せずしてエルヴィスのレコード棚にありそうなものばかりになってしまった。
 サウンド・ベイ・リパブリック以外にも2〜3軒は回ろうと思っていたのに、ここの在庫をチェックしているだけで時間はあっという間に過ぎてしまった。予算もほぼ使い切ったので、他の店は断念して勤労会館へ向かう。
 会場到着は開演の20分ほど前。おそらく来場客で最もごった返す頃だと思うが、豈図らんや、異常なほどスムーズに会場に入れてしまう。嗚呼、今日もチケットは売れてないのか。1階が7割ほど埋まるに留まり、2階席はゼロ。とうとう今回のツアーは1箇所も完売にはならなかった。さすがにこの動員では、次回の日本ツアーは規模を縮小せざるを得ないだろう。ツアー・パンフももう作れないかもしれないな。残念である。
 ライヴの内容については…、2月1日発売予定のbeatleg誌で確認してくださいっ!!
 終演後、東京からの遠征組みの方々と合流。皆さんは泊まりだったり、夜行で帰るつもりだったりだそうで、そのまま打ち上げへ。のぞみを予約していた私はひとり名古屋駅へ。10時10分発ののぞみ最終便をホームで待っていると、エルヴィスのツアー一行も現れる。実はこれで帰るのは知っていたのだけどね。
 最初にサウンド・エンジニアなどクルーたちの姿を確認。近づいてツアー・スタッフの方ですよねと聞くと、「そうだ」との返事。「もうじきエルヴィスも来るよ」と教えてくれる。1分と経たない内に、今度はデイヴィ・ファラガーとピート・トーマスも現れる。スティーヴ・ナイーヴは明日の大阪でのソロ公演のため別行動だったようだ。すかさず昨日購入し、エルヴィスにはサインを入れてもらっていたツアー・プログラムを取り出し、サインをねだる私。用意周到である。「ここに載ってる記事は私が書いたんですよ」と言うと、デイヴィは「本当?スゴイね」と感心してくれる。日本まで演奏しに来るあなたの方がよほどスゴイと思うのだが。デイヴィはいい人だ。一方ピートは全く興味が無さそう。無表情のままサインをしてくれたが、後で見たらドラム・スティックのイラストを沿えてくれていた。
 2人にサインを貰っている間にエルヴィスも到着したようだ。携帯で話しながら、人気の少ないホームをうろうろしている。傍目に見てもだらしないと思うほどにニタニタしながら話しているので、電話の相手はダイアナだろう。こりゃあエルヴィスには話しかけられないなと思い、サインは昨日いただいていることもあり、諦めてその場を離れる。新幹線の到着まで10分足らずだったので、売店に寄り、缶ビールを1本、それとお腹が空いていたこともありかまぼこを一袋買う。代金を払っていると、何とレジ横の入り口からエルヴィスが入ってきて私の後ろに並んだ。これには焦った。狭い店内にいるのは売店のおばちゃんと私、そしてエルヴィス・コステロの3人のみ。初めてエルヴィスのレコードを聴いてから20年以上が経つが、今初めて私は彼に背中を向けている。
 頭の中が真っ白になり、売店のおばちゃんからお釣りをもらったかどうかも覚えていない。売店の外へ出て待っていると、エルヴィスは手ぶらで出てきた。この時間では店の中は空っぽに近かったので、欲しいものは無かったのだろう。スタッフたちのいる方へ歩いて行こうとするエルヴィスを呼び止め、東京から今日のショウを見に来たこと、今日は最高の内容だったことを拙い英語で話し、「サインいただけますか?」と聞くと「もちろんだ」と快諾してくれた。持っていたプログラムには既にサインがあるので、終演後に貰った今日の予定セットリスト表を差し出したまでは良かったが、ペンをどこかに仕舞い込んでしまい、再び頭は真っ白に。ペンを見つけるまでほんの10秒ぐらいのことだったろうが、今エルヴィスを待たせていると思うと生きた心地はせず、10年もの時間が流れたような気がした。とにもかくにもペンを見つけ出し、エルヴィスに渡す。スラスラっとサインを書くエルヴィスに、「またすぐ(日本に)来てくれますよね」と聞くと、「sure」と答え右手を差し出すではないか。実は96年にもエルヴィスの方から握手を求められたことがあったのだが、あの時は私が作ったファンジンを渡したことに対する礼だった。今回はただのサインをねだるワンフーに過ぎないのに、そこまでサービスするかと驚いた。
 その後エルヴィスたちはグリーン車、私は普通車に乗り、同じのぞみで東京へ。道中今日のライヴ・レポートの下書きをしようと、ノートを広げたのだが、そんなことはどうでもよくなってしまった(オイ!)。私の隣には出張帰りなのだろう、酒臭い息のおっさんが高いびきをかいていたのだが、それすら全く気にならないほどに、素晴らしかった今日のライヴと名古屋駅での紳士的なエルヴィスの態度を反芻しているうちに東京駅に着いてしまったのだった。