Todd Rundgren@渋谷AX

just another victory



 あ"〜〜、えがった。正直に言うならば全く期待をせずに足を運んだのだが、10年前と同じように期待して行ったとしても充分満足できるライヴだった。
 事前に噂されていた通り、動員はひどいものだった。こんなにガラガラのAXは初めてだ。10数年前サンプラザを埋め尽くした人たちはどこへ行ってしまったのだろう。この人数ならクアトロでも収容できたと思う。最新アルバムは買っていないし、前述の通り何の期待もしていなかった私ではあるが、さすがに「キャンセルになるかも」とまで聞いては20年来のファンとして観に行かない訳にはいかなかった。しかし私と同じ理由で来ていた人が多かったのかもしれない。少数精鋭のエキスパートが集結していたようで、観客の反応は暖かく、盛大なものであった。
 それを招いたのはもちろんトッドとバックバンドLiresの演奏である。ステージ上にはバンドメンバー4名(ベースはカシム・サルトン!)それぞれにフレームで囲われたブースがあり、横一列に。前方には一回り大きなフレームのトッド用ブースが設置されていた。詳細はこちらをどうぞ。照明、衣装も非常に凝ったもので、トッドの意気込みと、懐メロリーグ入りを拒絶する意地が感じられた。
 私にとっては約10年ぶりのお目見えとなるトッドが出てきた時は、一瞬ひるんだ。うっ、太ったというか、体の線が崩れたなぁ。腹出てるなぁ。見た目が老けたため、寄せていない期待がいっそうしぼみかけたのだが、演奏が始まった途端、驚きを伴った感動へ一気に振り戻された。トッドはよく声が出ており、外見とは打って変わって往時と同等、あるいはそれ以上の歌声を響かせる。気迫のこもった熱唱が素晴らしい。またバックバンドは最初テープを流して当て振りしているのではないかと思ったほど演奏が上手い。トッドのバッキングとしては史上最強だと思う。
 前半はロック調で進み、トッドの弾き語り2曲を挟んで後半はソウル調のナンバーという構成。新作『Liars』からの(と思われる)曲が中心で、特に前半はお馴染みのヒット曲をまるで演奏せず。しかしこれが退屈するどころか、いちいち感動的。3曲目が終わる辺りでは新作も聴かず、ほとんど義理だけで観に来た自分を恥じた。許せ、トッド。
 演奏はオープニングからこってり風味で押し進められ、途中の弾き語りコーナー(しかしそれもストラトキャスターで)で多少クールダウンした以外は一貫して濃厚で脂ぎっていた。そのためソウルパートも後半まで来るとコッテコテの極み。テクニシャン揃いであることに相当自信があったようで、トッドは各メンバーに長々としたソロをこれ見よがしに取らせ、自分もフェィクてんこ盛りで歌いながらステージ上を右へ左へ。ジャズ調にアレンジされた「Born To Synthesize 」、『Nearly Human』からの「Feel It」「The Want Of A Nail 」の流れはステーキとうなぎを同時に食ってるような高カロリーにクラクラ。
 「The Want Of A Nail 」で大団円を迎えて、心境としてはもう満腹だったのだが、アンコールで「Hello It's Me 」、さらにアンコールで「Just One Victory 」と来た日にゃあドクターストップ覚悟で盛り上がる。「Hello It's Me 」の「♪It's important to me  That you know you are free  'Cause I never want to make you change for me」のところは大合唱となり、数は少ないながらも熱心なファン達と至福の瞬間を味わった。
 何事においても過剰気味なのはトッドの特徴であるが、それがまーーーーったく衰えていないのは驚きでもあり、嬉しくもあった。さすがにもう、あの飛び蹴りのアクションは決まっていなかったけれど、演奏自体はトッド・ラングレン健在を嫌と言うほど思い知らせてくれた。新作買おうっと。