UA@日比谷野外音楽堂



数日前から天気予報でも言っていたし、朝からの雲行きを見ても「こりゃあ、雨は避けられそうにないなあ」と思ってはいたが、さすがは水の女UAである。午後6時過ぎ日比谷駅から地上に出ると同時ぐらいにポツポツ降り出し、ほどなく土砂降りに。みるみる水溜りが出来、濁流が川となった。う〜む、昨日今日の雨女ではないな。金バッジの雨女。
一応持参した合羽を着込んで会場に入ったが、ポンチョタイプの簡易合羽だったので大して役に立たず、ビニールから染み込んだ雨が体を濡らす。さらに野音はステージを中心にすり鉢状の造りになっていて、私のいたAブロックは最も低い場所で、くるぶしまで浸かるほど水が溜まっていた。
6時半の開演時間が過ぎる頃には雨も絶好調。さすがにこんな豪雨では中止になるんじゃないの?なんて話していたらバンドメンバーが登場。おー、こんな状況でやるのかといきなり盛り上がる。雷鳴も聞こえる中、UAがステージに。イントロに合わせて「♪アアアアァァ〜」と発声した途端、目の中に赤い閃光が走り轟音が鳴り響く!すぐ近くに落雷したのだ。どんなにお金をかけてもできない自然の演出に、今日のライヴが奇跡的なものになるであろうことを確信した。
相変わらず雷はバキバキ鳴っているし、雨音はこの上なく激しいし、フードは被っているしで音は聴き取りにくかったのだが、かなり粗い演奏だったことは分かった。繊細なアンサンブルとその場限りのインプロが聴きものの今回の編成にあっては、この荒天で本領を発揮することは難しかっただろう。それは残念だ。しかし雷が直撃すれば命すら落としかねない中での演奏は、また別の熱いグルーヴを生んでいたのだった。
もうひとつ、ステージ前方に立って歌うUAに雨を遮るものがなかったことも不思議な一体感につながった。これがもし運動会の来賓席みたいな無粋なテントを立てた下で歌っていたら視覚的にも興ざめだったろうが、観客と同じように、いや合羽を着られない分観客より大きなダメージを受けながら、歌うUAの姿に観客は一蓮托生の意識を持ったのだった。
その神秘的な体験が目に見える形で現れたのは「ドア」が歌われた時だった。言霊のしわざかと思われるほどに詞の一語一語が響く熱唱には、文字通り身震いするような感動を覚えた。決して雨に打たれて体が冷えたせいではなかろう。
セットリストは5〜7月のツアーでのものに少しバリエーションが加えられていた。「バラ色」はツアー後半からレギュラーに加えられたようだ。「ドア」「波動」はツアーでは登場頻度の低かった曲で、ここでセットリストに加えられたのは特別な意味があったのかもしれない。前述の通り、出来は素晴らしく、特に「ドア」は今まで聴いた中でも一番の名唱だと思う。
「ファティマ〜」が終わるとブラス3名が捌けたので、色めき立つ。思ったとおり「スカートの砂」だった。東京では渋谷公会堂公演以降セットリストから外されていた曲で、久しぶりに聴けたことになる。このままブラス隊が戻ってこなければ、次は「ミルクティー」だったはずだが、それは叶わず。
また導入部分が変わっていた「TORO」は、この日のバンドの状態を象徴するような演奏で、上がりすぎのテンション故、ソロの交換に入ったあたりからテンポがどんどん速くなっていったのが可笑しかった。最後の方なんてパンク並のアッパーなスピードナンバーになっていて、これまたこの日ならではのスペシャル。こんなヴァージョンはやろうと思ってできるものではないだろう。
「踊る鳥〜」と「Lightning」のメドレーで通常なら本編が終了するはず。この日もここで一旦終わる予定だったのだろうが、UAはステージ中央から去ろうとしない。帰りかけたバンドメンバーが戸惑う中、UAは振り返り「みんなはええよ、アカペラで歌うから」と言っているのが聞こえた。メンバーがステージ袖に捌けたあたりで観客の方に向き直り、「水色を歌います」と一言。ついに来たーーー!!である。今ツアー中、1〜2回歌われたようだが、私が見た東京での5回とフジロックでは聴けなかった曲である。それどころか、ライヴで聴くのは『AMETORA』のツアー以来だから実に6年ぶり。

わたしは水色の翼 大空に広げ
疲れて飛べない日は 大きな木に止まり
愛の言葉と風の唄 貴方にうたいましょう

季節は限りなく 回り続けてるけど
わたしのこの心に 光る水色は
いついつまでも変わらない 空と海の色
思い出よ ありがとう

満員の野音が水を打ったように(実際打たれていたのだが)静まり返り、聞こえるのは雨の音と風の音、かすかな虫の声、そして朗々と響く無伴奏UAの歌声である。舞台上空の闇を遠くで光る稲妻が時折明るくする。この状況で歌われる曲としてこれ以上相応しいものが他にあるだろうか。滅多に聴けない曲だからこそ、この夜こうして聴けたことに喜びを感じる。いい歳をして涙ぐんだとして何がいけないというのだ。
「水色」を歌い終えるとバンドメンバーが戻ってきて、通常ならアンコールとして歌われる2曲を演奏。ドラム外山明の側にセッティングされていたシロフォン(?みたいな木琴)は使われなかったので、「UA UA RAI RAI」はカットされたようだ。一時は小康状態だった雨がこの辺りからまた本降りに戻り、「雲が〜」を歌う前にUAが「じゃあ最後に…」と言うと会場から一斉に「エェェーー」と不満の声。もちろん私も同じ気持ちだった。2時間近く大雨の中で立ったままでも、「もっと歌ってくれー」と思わずにいられないだけの魅力あるシンガーはちょっと思い当たらない。
前にも書いたことがあるような気がするが、UAという歌手は決して技術的に優れた人ではない。声域はそれほど広くないし、音も時々外す。正確さだけ取り沙汰すればむしろ下手な部類に入るのかもしれない。しかし曲に情感を乗せる能力、歌で神秘的、幻想的な世界を描く能力、そういう表現が可能な歌い手としては当代一級の人だ。瞬間的な雨足の強さは天神山での第一回フジロックを凌いでおり、おそらく野外ライヴで考えられる最も過酷な状況下でのライヴだったと思う。その悪条件を撥ね付けるというか、むしろ味方に付けたかのようなパフォーマンスにUAの真骨頂を見た。さすがに完成度の高さでは他のホール公演に譲るが、この日は何もかもがスペシャル。この日この場所にいたことはUAのファンとして後世まで自慢のタネにさせてもらう。会場には何台かのカメラが入っていて、ソフト化するのか放送するのか定かではないが、収録が行われていた。会場に来れなかった人は後日モニターを通して追体験できると思われるが、その際はぜひバケツで水をかぶりながら見て欲しい。そうすればこの日の雰囲気を100分の1ぐらい味わえるかもよ。

2004年9月4日 UA@日比谷野外音楽堂セットリスト

01.そんな空には踊る馬
02.バラ色
03.ロマンス
04.ドア
05.波動
06.ファティマとセミ
07.スカートの砂
08.情熱
09.閃光
10.TORO
11.踊る鳥と金の雨
12.Lightning
13.水色
14.太陽ぬ落てぃまぐれ節
15.雲がちぎれる時