ファントム・ギフト@渋谷チェルシー・ホテル



 パークタワーブルースフェスのハワード・テイトも見たかったけれど、14年ぶりの再結成にしてたった1度きりのライヴとなればファントム・ギフトも見逃すわけにはいかない。80年代後半の一時期注目を集めたネオGSムーヴメントの急先鋒だった彼らは、私にとってはレコードや雑誌記事を通じてしか知らない幻のバンドだった。ネオGSムーヴメントと言っても後のバンド・ブームなどに比べれば小さい小さいシーンであって、都内のライヴハウス以外では「そういうものがあるらしい」という認識でしかなかった。活動期間が約4年と短かったことと、当時私は地方在住の大学生だったこともあって、一度もライヴを見ることが無いままに今に至ってしまった。オリジナルGSの虚飾に満ちた世界観にはどうも馴染めないものを感じるものの、80年代後半のネオGS、特にファントム・ギフトは海外のガレージ・パンクと同じ狂気と破壊力が秘められていた点で今なお輝きを失ってはいない。その余波は80年代末から現在まで続く東京のガレージ・バンド、MAD3、ギターウルフゆらゆら帝国らにも見ることができるのだ。遅れてきたガレージ・ファンである私などは、恥ずかしながら前述の現役ガレージ・バンドを通じて再評価した部分が少なからずあり、せめてもの罪滅ぼしにとピンキー青木が経営する西新宿のレコード屋に通ったりしたものだ。
 前置きが長くなった。この日のチェルシー・ホテルはもちろん超満員。再評価によって開拓された若いファンが多いのかと思いきや、半分ほどはネオGSをリアル・タイムで見守った30代後半から40代前半の観客だった。よって場内はさながら同窓会。
 対バンは2組あり、最初に登場したのがTHE OUTS。EVIL HOODOOから1人欠けただけのこのバンドは、EVILの頃ほど60年代ガレージ・パンク一直線ではなくなり、ブリティッシュ・ビートの要素も見えたり、より普遍的なロックンロールを追求しているように見えた。文句なしにカッコエエ。ヴォーカルtakuyaのカリスマ性あるパフォーマンスは相変わらず素晴らしく、60年代のミック・ジャガーの影がちらつく。4曲ほどであっという間に終わってしまったせいか、高齢客にはあまり受けていなかったのは意外でもあり、残念でもあった。
 続いてネオGSムーヴメントを支えたもう一方の雄、HIPPY HIPPY SHAKES。彼らもこの春10数年ぶりの再結成を果たし、5月にロフトでライヴを見た。その時やはり「今回限り」という触れ込みだったのだが、どうもファントム・ギフトから要請があって再度のステージとなったようだ。「(ファントム・ギフトとの)対バンなんて15年ぶりぐらいだ」と苦笑いする背景には、寄る年波を隠せない風貌の変化への照れもあったのだろう。見事な中年体型になったメンバーは、それでもサイケな衣装に身を包み、マッシュルームカット(当然ヅラ)でGSの美学を貫いていた。こういうファッションでなければ出してはいけない音というものが確かにある。ただHIPPY HIPPY SHAKESはあまりに伝道師としての立場を全面に出し過ぎのきらいはある。ガレージやGSのカヴァーが中心であるのはまだしも、忠実な再現で終わっているのでバンドのアイデンティティが「コピーすること」にしか見出せないのは、今となってはもの足らない。オリジナルが全く知られていなかった時代ならではのバンドだったのだな。
 そしていよいよファントム・ギフトの登場。一見して思ったのはメンバー全員がとても若々しいということ。比較に出して悪いが、HIPPY HIPPY SHAKESのようなおっさん臭さが感じられず、緊張感のあるルックスなのは驚いた。音も溌剌としていて、とても14年ぶりのライヴとは思えない。ドラムのチャーリー森田は現チャーリー&ホット・ホイールズであるし、ベースのサリー久保田もバンドを再開したのは知っているけれど、他のメンバーもミュージシャンとして活動しているのだろうか。当然それなりに練習をした上で挑んでいるのは間違いないが、ちゃんとバンドとしてのグルーヴが感じられたのは流石。これなら現役当時の演奏力がいかほどのものだったのか想像もつく。ファントム・ギフトが今でも評価を得ている理由は、伝説が一人歩きした結果ではなく真っ当なライヴ・バンドだったことも見落としてはならないだろう。ピンキー青木のヴォーカルなど、レコードよりずっとワイルドで1回限りのライヴで封印してしまうにはあまりにも惜しい。それに改めて名曲が多かったことも思い知らされた。「ベラドンナの伝説」とか「夜空に消えたシンデレラ」とか、実にキャッチーで、GSやガレージ、サイケの要素を組み込みながらファントム・ギフトのオリジナリティーが確立されている。「ハートにOK」なんてどうしても「O,K!!」って叫ばずにはいられない。
 アンコール2回を含めて1時間強のライヴは単なる顔見せとは違い、伝説の目撃以上の価値があるものだった。今後ファントム・ギフトが本格的に活動を再開するとは思えないけれども、これだけのライヴが出来るのだから、一方的に期待だけは寄せておこう。