Television@渋谷AX



あのテレヴィジョンが2年連続で来日するとは思わなかった。92年の再結成後の初来日は伝説を一目見ようとファンが詰めかけ、各地で盛況を博した記憶があるが、去年のフジロックに次いで3度目の来日ともなるとありがたみも薄れてしまうのは仕方ないというか、ファンも結構現金なもので、この日は唯一の単独公演であったにも関わらず、AXは満員とはいかなかった。


92年の再結成は14年ぶりの新作アルバムを引っ提げてのツアーであってバンドとしてのポテンシャルも一応高く、結果的には大した成果を残せなかったとはいえ、ツアーを行う意義はあるものだった。しかるに2年ほど前の再々結成以後は新作を録音するなんて話はとんと聞こえてこず、集金のための懐メロバンドに成り下がったと言われても反論の余地は無い。ただし去年のフジロックがそうであったように、過去の名曲の数々を往時の演奏に匹敵するテンションで奏でてくれるのであれば、その感動は普遍的に与えられるものであってそれに対しお金を払って見に行くことは今なおファンを自認する者にとっては代えがたい喜びであるはずだ。逆に言えばその一点を置いて今のテレヴィジョンのライヴに価値を見出すことは難しい。


だから一応の期待というものはあった。いくら伝説のテレヴィジョンでもただステージに出てきて演奏すれば何でもありがたがるというほどこちらも盲目的なファンではない。ところがこの日のテレヴィジョンはただステージに出てきて演奏したという範囲を越えていなかった。客電が落ちて緊張が高まる中現れたメンバーに歓声が湧く。ここまではいい。すぐに演奏を始めるかと思いきやいきなりチューニングを始めたのには脱力。そんなことは開演前にやっておけよ。結局このダラダラした空気が終始付きまとったライヴだった。そもそもテレヴィジョンにきっちりしたものを求める方が間違いだという意見も理解できるが、それが演奏を疎外するものであっては元も子もないのである。ミスは目立つし、リチャード・ロイドのフレーズは粗雑だし、リズム隊だって技術的に高度な人たちでないことは承知しているとはいえ今にも止まってしまいそうなズンドコぶりを見せられては萎えるなという方が無理だ。去年のフジロックが思いの外素晴らしい演奏だっただけに、それと同レベルのものを期待していたせいもあるかもしれない。もしかしてあのライヴはテレヴィジョン一世一代の名演だったのだろうか。


「ヴィーナス」のサビの「(゜Д゜)ハァ?」のタイミングがバラバラのコーラスには失笑を買ったし、「マーキー・ムーン」ですら一番盛り上がったのはイントロが始まった瞬間だったのはどう考えても問題ありだろう。カタルシスを得るためには緊張と緩和が交錯することが条件であるのに、ずぅーっと弛緩したままでは得られるはずがない。聴きたかった「フリクション」をやってくれなかったことも個人的にはマイナス・ポイント。こんなことなら無理してでも朝霧ジャムに行くんだったな。朝霧のロケーションだったらメンバーももう少しやる気を発揮してくれたかも。