MAD3@渋谷CLUB QUATTRO



開演が午後8時というのは会社勤めの身には嬉しい。お陰で一旦帰宅して着替えてから出掛けられる。この時間設定は当然私のような客を意識してのことだろうが、MAD3の客って勤め人が多いのか?しかしその工夫も空しく、動員は正直なところ辛いものがあった。開演20分前に到着したのに楽に最前列に辿り着けてしまった。フロアにはテーブルも出てるし...。さらに右手の一段高いスペースは客を入れないでDJブースにしてある。7月に発売された傑作「Black Leather Blitz」をサポートするツアーの一環として東京で久しぶりに開かれたワンマンライヴだというのにこれではちょっと寂しい。客層はいつものシェルターなどでは見掛けない人も結構いる。カップルとか(笑)。これは場所柄を反映してるのだろうか。クアトロだから来たという人はいるみたいだが、クアトロだから来ないという人もいたのだろう。


定刻通り開演。いつもの「ワルキューレの騎行」とともに3人がふてぶてしく登場するのだが、EDDIEだけは足を負傷しており、いつもなら振り回している髑髏のステッキを突きながらのお出ましだったので驚くと同時に心配になる。後から聞いた話では車椅子に乗って演奏する予定すらあったそうで、確かに傍から見ていてもお労しい。客の入りといい、悪条件が重なってしまい、ファンとしてはこのライヴがちゃんと成功するのか不安を抱かずにはいられなかったので、少しでも盛り上げるべく反応は大きめに、いつもより余計に騒ぐことを一方的に誓う。それが最前列の勤めでもある。


しかしそんな勝手な思い入れも演奏が始まってしまえば必要ないほどに、この日のテンションの高さ及び音の重さには圧倒されたのだった。私が見た最後のMAD3のワンマンライヴは前作が出た後の一昨年の暮れのリキッドルームだった。この時は前座が付いた上に本編が3部構成でそれぞれ違ったコンセプトの選曲であるばかりか、3部とも衣装を変え、ゲストを交えての凝ったものだった。彼らのサービス精神の高さを象徴するようなヴァラエティに富んだ内容とも言えるが、今日はそれとは打って変わって3人だけでシンプルに演奏を聴かせることに徹したものだった。新作がインストゥルメンタルの比重を高めた原点回帰路線だったこともあり、今回のライヴも要所を固めたのはインスト曲という印象。全体としても歌ものとは半々ぐらいの構成だったと思う。珍しくKYOがリード・ヴォーカルを担当した(歌も上手いので驚いた)「REAL ME」(WHOのカヴァー)や、途中ブリッジ的に披露されたKYOのドラム・ソロのパートなどワンマンならではの趣向もあるにはあったが、基本的には新旧のレパートリーをずらりと並べてこの3人だから可能な演奏の限界点までを見せる「どうだ文句あるか」的な贅沢な内容だった。


EDDIEのスクリーミング・ギターはロックンロール界の名だたる先達に全く引けを取らない堂々としたものだった。さすがにこの日は歩くのもやっとという感じでいつものアクションは望めなかったものの、その分はHARUTOのジャンプがカヴァーしていた。サンダー・ベースの異名を取るHARUTOのベースはさすがの爆音ぶりで、こんなにでかい音で弾くベーシストも珍しい。そして様々なバックグラウンドを感じさせるKYOのドラムはトリオ編成のロックバンドとしては最強のスタイルを獲得しているのではないかと思わせるものがあった。これがアンコール2回を含めてトータルで2時間半近く続いたのだから、そりゃあもう声はガラガラ、汗ダクダク、足元フラフラの壮絶な体験だった。こんなに凄いライヴをやるのにどうして動員がこの程度なのか私にはさっぱり分からない。およそロックンロールというものに興味がある人間なら見逃すなんて愚かでしかないのに。