さすがにこれではただの酔っ払いの戯言みたいなので、いや実際酔ってたのですけど、もう少し総括的なことを。ハービー・ハンコックが開催前に寄せたコメントである「フェスティバルの心はジャズの心」というのは原語では何と言ったのか知らないし、この訳が果たして適切だったのかはもっと分からない。ただ言わんとするところはこのイベントに足を運んでよく伝わってきた。ジャズの心とは今更確認するまでもないが即興性だ。ミュージシャン同士の意識のぶつかり合い、つまりインタープレイが演奏の出来そのものに大きく影響することは間違いなくジャズの肝の部分である。レコードに記録された演奏はもちろん、座席のあるホールなどでジャズの演奏に触れる時、その即興の面白さは観客から見て一方的に与えられるもの、文字通り観客は客体である。ところがこのような野外フェスの開放的な空間では観客さえもがインタープレイの一部と化す。少なくともこの日の味の素スタジアムではソロが終わった後の半ばお約束のおざなりな拍手は無かったように思う。数は少ないながらも演奏を楽しみに来た観客は、優れたプレイに対しては惜しみなく拍手や声援を送っていたし、それによってますますグルーヴが大きくなる瞬間は何度も目撃できた。


この日見たアクトはどれも素晴らしかったけれど、フェスの心を最もがっちり掴んでいたのはスピーチか。あえてジャンル分けするならヒップ・ホップと呼ぶべきだろうが、曲はジャム・セッション的な自由度の高い構成でコール&レスポンスの応酬を交えながら客を煽る、煽る。まだ日差しが強い中での演奏だったので最初の方こそおとなしかった客も途中から半狂乱になって踊りだす者が続出し、スタジアム全体が大パーティー会場になってしまった。それを受けてのステージ上のパフォーマンスは一段と熱気を帯びるという理想的な展開。スピーチ以外のヴォーカル、MCははっきり言って技術的にはレベルは高くなかった。声量もあまり無いようだったし。しかしそんな欠点を補うには充分過ぎるノリの良さがあった。これぞ野外フェスの、ライヴ・パフォーマンスならではのマジック。懐かしの「テネシー」が始まった時などは本当に一瞬天国が見えたね。


スタジアムという人工的な空間にも関わらず野外でのライヴを謳歌できたのはおそらく不入りだったからだろうなあ。夕方になるにつれてさすがに客は増えたけれども、それでもアリーナが7割、スタンドが3割ぐらいしか埋まっておらず、お蔭でスタンドでは座席を3つばかり占領して、踊る時は踊り、また落ち着く時は落ち着いて、のんびりと見させてもらった。音は良かったし、サッカー用スタジアムだけあって解像度の高い大スクリーンもあるし、その点では快適だった。でもこれがもし満席に近い入りだったとしたら同じ感想にはならなかっただろう。来年もぜひ今年くらいの動員でというのは無理な相談か。