忌野清志郎@渋谷AX



 恒例のクリスマス・ライヴ。飛んだり跳ねたりするとまだ腰に痛みは感じるものの、特に負担をかけない動作であれば普段と変わりなく動ける程度には回復したので、ノコノコとAXへ。スタンディングの会場ではあっても、客の年齢層を考えればモッシュが起きたりはしないだろうという読みもあった。
 昨年同様AXは超満員。ざっとこんなもんよ、と客の立場ながら我がことのように気分が高まる。今年でデビュー35周年のベテランロッカーにして、これだけの集客力を維持している人は他に見当たらない。
 満員電車に近い人口密度の中、ステージまで10メートルほどのほぼ中央の位置を確保。定刻が過ぎ、客電が落ちた時に少し押されたが、思った通りモッシュ状態にはならずにそのまま3時間。ナイス・ミドル・ウィズ・ニュー・ブルー・デイ・ホーンズがバックを務めるセットはこの2年余りで何度も観ているので、全体的な構成に目新しさは無かった。何なら去年のレポートをそのまま転載しても良いくらいだ。
 ジェームス・ブラウンのスタイルを借用したことを忘れてしまうくらい、すっかり定着したオープニング。RC時代の曲を3曲続け、その後にバラード。古めの比較的レアな曲を2曲ほどと、最近の曲をこれまた2〜3曲かましてファンに対するサービスと、現役感をアピール。三宅伸治が歌うコーナーを挟んで、その後は怒涛のヒット曲攻勢。「トランジスタラジオ」「ドカドカ」「キモチE」「Sweet Soul」「スローバラード」「雨上がり」などなど。「スローバラード」での雪を降らす演出も、「雨上がり」でのコール&レスポンスももうお約束だ。そしてお約束中のお約束、「愛しあってるかい?」のMCに続いて「Baby 何もかも」でのマントショウで一旦幕。その後2度のアンコールも昨年と同様だった。
 さすがに選曲は昨年とはかなり違っており、オープニングが「Rock Me Baby」。珍しいところでは「RAZOR SHARP」が聴けたのには感激。レア度で言えばさらに驚いたのが、本田美奈子に書いた「あなたと熱帯」まで演奏。これをライヴで披露するのは最初にして最後ではないかな。「俺より若いやつは俺より早く死なないでくれ。天国へ行ったとき先輩面できないじゃないか」と清志郎らしいMCにも涙。少なくともこの人が現役でいる間は死にたくないものだ。
 THE DIG誌の年間ベストアルバム再発部門で1位に選ばせてもらった『Rhapsody』が出た後だったので、「ラプソディー」は聴きたかったのだが、これは叶わず。しかし「いい事ばかりはありゃしない」があのアルバムで聴けるヴァージョンに引けを取らない名演だったことと、「スローバラード」の歌い出しの「♪き〜のうは〜」の「き〜」に衰えを感じさせない力強さを見たので、帳消しだ。確か泉谷しげるが言っていたことで、私も同感なのだが、清志郎がバラードの歌い手として素晴らしい点はシャウトしながら歌っているのに、耳元で囁かれているように聴こえることだ。
 1回目のアンコールは「ダーリンミシン」と「JUMP」、2回目のアンコールが「世界中の人に自慢したいよ」だったかな。2回目のアンコールでステージに燭台を並べる演出は去年と同じだったし、新曲の披露は無く、あくまで王道展開で突っ走ったのには正直なところ既視感が強すぎて大満足とまではいかなかった。もう少し驚くようなこともして欲しい気がしたので。ただ年の瀬に清志郎のライヴを見ないと年が越せないのは事実だし、ファン歴20年以上と思われる同志達といっしょに大合唱、それもサビだけでなく、フルコーラス歌うのは、忘年会気分で楽しい。中学生の時のヒーローが今なおヒーローでいてくれることに感謝すべきなのだろう。