UA@すみだトリフォニーホール



 チケットを予約した時はまさか公演日に入院しているとは思わなかった。しかし主治医から何とか外泊許可をもらって、駆けつけることができた。今までどんな検査にも耐え、従順な患者で通してきたのは全てこのためだったのだ。
 会場は錦糸町の駅から徒歩3分ほど。通常はクラシックの公演に使われることが多い、天井の高いホールだ。昨年『SUN』のツアーでもこのホールは使われており、その時は6回見たツアー中のベストであっただけでなく、UA自身も「トリフォニーホール、ばんざーい!良いホール!」と言っていたほどなので、相当気に入っていたようだ。となると、今年もどうしても見逃せないわな。
 今年はツアーを行なわなかったので、単独ライヴは7月の日比谷野音以来となる。今回の編成は大野由美子(ムーグ、スティールパン)、内橋和久(ギター、ダクソフォン)、関島岳郎(チューバ)、後は名前が分からないのだがギター、チェロ、そしてマリンバヴィブラフォン、パーカッションを担当する2名。野音の時の編成にチェロが加わった形だ。ギターは野音の時の青柳拓次ではなかった。
 開演時間を少し過ぎた頃、客電が点いたままの状態でUA以下メンバー全員がステージに整列し、まず挨拶。少々変わった開演だった。UAの出で立ちは白いドレスに白いブーツ。センター分けのストレート・ロングで、おでこを出していたので『Breathe』のジャケットとは違った印象。
 1曲目は「そんな空には踊る馬」。オリジナルは重厚なアンサンブルで、ドラマチックに盛り上がる曲だが、ドラムレスのこの編成では各パートがリズム楽器のようにリフを繰り返し、サビの部分がボッサ調にリズムが変わるアレンジが施されていた。シンプルでいて巧みなこのアレンジは、曲に新たな表情を与えることに成功していた。
 7月の野音では『Breathe』の音をアコースティック中心のこの編成で再現しようとファゴット大正琴まで動員するなど苦慮した跡が伺え、曲によっては多少無理を感じることもあった。ところが今回はアレンジがより洗練されており、チェロと内橋のギターが必要最低限のメロディーを奏でる以外は、ベース音に徹したチューバを筆頭に、どのパートもミニマルなビートを刻むことで伴奏を作り上げていた。またUAが禁欲的とも言えるそのバッキングに身をゆだねるように、たおやかに歌っていたのも印象的だった。派手なフェイクは使わず、力んで歌い上げるようなこともほとんど無かった。実に伸び伸びと、気持ち良さげに歌うので、格調高いこの会場でも肩に力が入ることなく、リラックスして楽しめた。
 UAの歌唱は100点満点を付けて問題ないだろう。音程、リズム感とも完璧だったし、声そのものも良く出ていた。ファルセットになるところでは従来声がかすれてしまうことが度々あったが、今夜は透明感ある高音が綺麗に出ていて、うっとりするほど美しかった。
 セットリストは別項参照のこと。『Breathe』の曲と『泥棒』の曲を固めた流れが特徴的だ。『Turbo』以前の曲は少な目とはいえ、シングル曲は適度に散りばめられており、最初から最後まで時間を忘れるほどに集中して聴ける内容だった。個人的に背筋にゾクゾクと冷たいものが走ったのが、アンコールの「電話をするよ」。まさか今になってこんな曲が聴けるとは思っていなかったので、最初のフレーズを歌いだした瞬間の驚きと感動は、筆舌に尽くし難い。
 また「閃光」もそれに負けず劣らず感動的だった。今まで「♪私の胸のラインに似た地平線に着地するときを」の後の長いブレイクでは、曲が終わったと思って拍手してしまう困った観客がいて、その度に興醒めしたものだが、今夜は全ての観客が固唾を呑んで「♪吠える空を見た」と始まるのを待っていた。この緊張と緩和によって得られるカタルシスを知っていれば当然のマナーである。このブレイク部分が意図した通りに決まったせいか、「♪吠える空を見た」からのUAは嬉しさが表情に現れていた。
 もうひとつ挙げるなら「踊る鳥と金の雨」の後半、アウトロに近い部分のリフも絶品だった。このリフが永遠に続けば良いのにと思わせるほど、心地良いものだったのだ。
 選曲面で残念だったのは10月に発売されたばかりの『Nephews』からは1曲も披露されなかったことか。編集盤という性格上理解できなくはないのだが、「この坂道の途中で」は歌うだろうとの予想は外れてしまった。何とも商売っ気の無い人である。その点を除けばトータル的にも批判すべきようなことはまるで見当たらない、素晴らしいライヴだった。先日のフィッシュマンズのトリビュート・ライヴはチケットが取れなくて涙を飲んだが、これで溜飲も下がるというものだ。2度目のアンコールの時だったか、客席から「ライヴCD出して!」との声が飛んでいた。私も同感である。これだけのライヴを音源化しないで、何が文化事業か。頼みますよ、ビクターの方。
 さて、明後日は昭和女子大人見記念講堂でもう一度公演がある。チケットはまだ残っているようなので、少しでも興味のある方は足を運ばれることをお勧めしておく。私もまた外泊許可を取り付けて観に行くつもりだ。

【セットリスト】
そんな空には踊る馬
ロマンス
Lightning
The color of empty sky
Michi
Mori
Niji
Like a soldier ant
ドア
記憶喪失
閃光
踊る鳥と金の雨
青空
 encore1
電話をするよ
スカートの砂
ミルクティー
 encore2
島唄(タイトル不明)


全て終演後に記憶を手繰り寄せながら取ったメモに基づくため、正確性には疑問の余地があります。自信があるのは8割ぐらいで、だいたいこんな感じだったという程度のものでしかないので、悪しからず。