「Mystery Dance」のミステリー

original mystery dance



 エルヴィス・コステロの初期の名曲「Mystery Dance」に2種類のヴァージョンが存在することは、ここをご覧の熱心なエルヴィスファンである諸兄諸氏なら先刻ご承知であろう。エンディングがフェードアウトで終わるヴァージョンと、突然終わるサドゥン・ストップ・ヴァージョンである。ではどのレコード、CDにどちらのヴァージョンが収録されているか、詳細を直ちに答えられる人はどれくらいいるだろうか。
 ふっふっふ…。およそほとんどの人は正確には答えられまい。私もそうだったよ。つい数時間前までは。漠然と「オリジナルはフェード・アウト、CD化された時にサドゥン・ストップに変わり、最近のリイシューCDでまたフェード・アウトに戻された」と思っていた。ひょんなことから検証してみた結果、次のことが分かった。
<F.O.version>
『My Aim Is True』LP(Stiff SEEZ3)英1977
「Red Shoes」EP(Stiff BUY15)英1977
『My Aim Is True』LP(Columbia JC35037)米1984
『My Aim Is True』CD(Rhino R2 74285)米2001
『My Aim Is True』CD(Victor VICP 62501)日2003
『My Aim Is True』CD(Victor VICP 62701〜2)日2004
『Singles vol.1』CD(Edsel BUY15)英2003
<S.S.version>
『My Aim Is True』LP(Victor VIP 6581)日1978
『My Aim Is True』CD(Demon FIEND CD13)英1986
『My Aim Is True』CD(Columbia CK 35037)米1986
『My Aim Is True』CD(Demon DPAM1)英1993
『Girls! Girls! Girls!』CD(Demon FIEND CD160)英1989
 「CD化の際にS.S.ヴァージョンが生まれた」とする当初の仮説は、78年の日本盤オリジナルLPが既にS.S.ヴァージョンであったことで覆された。当時のマスターはスティッフから送られたものを使ったと思われるので、スティッフは78年にはオリジナルと異なるマスターを持っていたことになる。何故日本にこのマスターが送られたのかは不明。78年3月発売のアメリカ盤オリジナルを所有していないので想像でしかないが、84年のリイシューLPがF.O.であることから、米オリジナルもF.O.の可能性が高い。日本盤発売にあたって別マスターをわざわざ作ったとも考え難いから、元々この曲は2ヴァージョンが作られていて、意図的に、或いは間違ってS.S.ヴァージョンのマスターが送られたとも考えられる。
 聴き比べたところ、F.O.ヴァージョンもS.S.ヴァージョンも、テイク自体は同じものである。一番最後の「I can't do it anymore and I'm not satisfied」が7回繰り返されるのも全く同じ。つまり収録時間の長さには違いは無い。F.O.ヴァージョンは1分35秒ほどだが、S.S.ヴァージョンは演奏が止まるところにディレイが掛けられているので1分36秒ほどになっている程度の違いでしかない。かつてS.S.ヴァージョンが登場したのはオリジナルのマスターが欠損していたためで、CD化に際し途中で止めるヴァージョンが作られたとする説が存在したが、これは間違いである。
 ただしオリジナルのF.O.ヴァージョンのマスターが欠損していたことに関しては事実である可能性が高い。というのも、2001年にリマスターされ発売されたヴァージョンはF.O.ではあるものの、ノイズが多く、盤起こしのように聴こえる。となると次のような仮説も成り立つ。

  1. オリジナルのF.O.ヴァージョンは78年時点で既に使えなくなっていた。
  2. そのため78年11月発売の日本盤にはボツになっていたS.S.ヴァージョンが使われた。
  3. S.S.ヴァージョンは86年の初CD化、93年のリマスター再発時にも使われたが、よりオリジナルに近づけた01年の再リマスター時に盤起こしの音源をマスターとした。

 これで一応辻褄は合う。この説を強固なものにするには、86年の初CD化と同時にリリースされたDemon盤『My Aim Is True』のLPを聴く必要がある。ここにF.O.ヴァージョンさえ使われていなければ、仮説は有効なのだが。どなたか持ってる方、確認してくれませんかねえ。あ、そんなこと知って何になる!という批判は受け付けませんので悪しからず。