Millions Like Us

k_turner2007-02-14



 パンク・ムーヴィーを連続上映中のシアターN渋谷にて、『VIVA JOE STRUMMER THE CLASH AND BEYOND』、『AMERICAN HARDCORE』に続き、『ROUGH CUT & READY DUBBED』を見る。
 ピストルズが解散し、クラッシュがパンクから逸脱したサウンドに傾いた78年以降のイギリスのパンク・シーンを追ったドキュメンタリー。スキンヘッズの台頭、ネオ・モッズやOi!など初期のパンクから派生した次世代バンドの活躍ぶりなどが記録されている。
 STIFF LITTLE FINGERSのライヴ映像は無条件にカッコイイし、SHAM69は無条件にバカだ。PURPLE HEARTSの動く姿なんて初めて見たし、A CERTAIN RATIOのライヴ映像には思わず身を乗り出してしまった。貴重な映像はふんだんに登場する。また当時のパンク・ファンたちの生の証言を多数収録している点で、確実に時代を切り取ることには成功している。
 ただ、どうにも精気に欠けるというか、全編を通じて祭りの後のような気だるさが感じられるのも事実だ。パンク・イヤーだった1977年は過去のものとなり、作品中ピストルズなど初期のパンク・バンドを「昔のバンド」という位置づけで語られる場面がしばしば見られた。怒涛のパンク・ムーヴメントは終わった。ではそれを完全に過去に追いやるような新しい動きがあったのかと言えば、そこまでのものが生み出せていないことは当事者とて自覚していたようだ。それなりに良いバンド、新鮮な音楽性は登場しているものの、いずれも枝葉の部分に過ぎず、太い幹にはなり得ていないのだ。
 求心力となるイノベイターが不在の時代に、シーン全体を俯瞰するようなこうしたドキュメンタリーが作られていたことは、ロック史検証の観点からは大変ありがたい。今となっては当時を伝える資料が少ないからだ。カメラワークや編集は素人レベルの映画で、それが却って生々しくもある。言い換えれば、商業的な目算があったら取り組むべきテーマでも無かったのかもしれない。これを見て人生が変わるようなことはないだろうが、パンクに興味があるのであれば、一見の価値はある。個人的にはJOHN PEELのいくつかの発言に共感できるものがあった。
 劇場公開は16日まで。現在GyaO劇場予告編を見ることができる。