ではご期待にお答えして…



 帰宅してネットに繋いだら、この日記のアクセス数が恐ろしいことになっていたのでびびる。これを書いている時点で今日だけで4桁に達しており、こことしては異常事態だ。何事かと思えば、音楽配信メモにリンクが貼られていたのだった。
 詳細はリンク先を読んでいただくとして、その中の「小売店オリコン対象ではない) A氏」の証言の中で、この日記の昨年12月18日のエントリーに対し、「明らかに事実誤認だと思います」と書かれている。それに対する「k_turner氏からの反論も期待したいところですが」との津田さんからのコメントも付いていることなので、謹んでお答えさせていただきたい。
 まあ、反論と言えるほどのことでもないのだが、あくまで私が実際に体験したことを記憶のある範囲で申し上げるとするならば、「明らかに事実誤認」とまで言われるのは心外だ。今回はこの点に絞って書くので、烏賀陽氏との訴訟の件はとりあえず置いておく。
 私がCDショップに勤務していたのは90年3月から96年3月まで。社名は以前この日記でも明らかにしたことがあるので、今さら隠すつもりはない。新星堂である。この時期の新星堂は拠店にようやくPOSシステムを導入し始めた時期であり、私自身、勤務していた6年間で3つの店舗を経験し、その中にはPOSシステムを導入している店も、導入していない店もあった。
 私が証言できるのは、あくまでこの時期に関してのみであることは、改めて表明しておきたい。つまり96年3月以降、現在に至るまでのオリコンチャートの調査方法がどうなっているのかは全く関知していない。
 オリコンが公表している調査協力店一覧には、新星堂の名前が含まれている。これが新星堂全店を意味するのか、それとも一部の店舗を意味するのかは不明。またあくまでこの調査協力店は現在のものなので、私が勤務していた90年3月から96年3月の時点で新星堂が協力店だったかどうかは、今となっては確認する術が無い。ただ当時新星堂と言えばCD小売業でトップシェアを持っていたはずだから、オリコンが信憑性の高いデータを求めるならば協力を仰がなかったとは考えにくい。
 90年3月から96年3月当時、私は現場の担当者として、CDの実売データをオリコンに提供したことは一度も無い。仮に新星堂が調査協力店に含まれていたとするならば、これは奇妙である。「小売店オリコン対象ではない) A氏」の証言には「オリコンの調査用紙を見たことがある」とあるが、私はそのようなものは見たことがない。尤もA氏が言っているのは20年近く前とのことなので、私が勤務していた頃とは時期が異なるが。
 実売数を毎週報告するなどという作業は、特にPOSシステムを持たない店舗の場合、非常に労力を要する。入荷した枚数から店頭残数を差し引きすれば実売数が出るが、それを全タイトルにつき、手作業で集計する手間を考えれば分かるだろう。POSが無い時代は発注も手作業だったから、どのタイトルをいつ何枚発注したかは、担当者レベルでノートにでも記しておかない限り、記録が残らないのである。もちろんその当時とて、売上げや発注に対する管理はしていたので、ある程度は記録を残していたが、あくまでも担当者の裁量の範囲(実際私は自前のノートに「正」の字を書いて発注数をカウントしており、自身で把握できる発注数に関するデータはそのノートのみが頼りだった)であって、毎週何十タイトルと発売されるCDの全種について記録を残すなどということは、よほど小規模で暇な店舗でもない限り不可能だ。業績の指標として社内的に使うための実売数の報告は行なっていたものの、対象となるのは店の売上げの中核を成す売れ筋商品のみだった。この報告は本部から「サザンの新譜の実売数を○日の○時までに」などと指示が出る度に行なわれるもので、全くの不定期だったし、そのデータがオリコンにも提供されていたという話は聞いたことがない。
 数少ないPOS導入店にしても、その当時のシステムはお粗末なもので、システムエラーが起きることは頻繁にあり、その度に数値はリセットされた。
 実売数に対する信憑性のあるデータが無い一方、卸し部門での出荷数、販売店から見れば入荷数に関しては集計が可能だったはずだ。さすがにその当時でも卸しの商品管理にはシステムが導入されていたからだ。オリコンがチャートの集計に使える唯一とも言えるデータは、卸しから販売店に出荷された枚数ぐらいしか考えられない。これがオリコンのデータは出荷枚数ベースとする根拠のひとつである。
 また当時CDショップに勤務する者の間では、オリコンチャートの集計が出荷数に基づくものであることは半ば常識だった。だからこそCDシングルの送り付け商品が存在したのだし、レコード会社のセールス担当から「オリコン対策」との名目で○ヶ月後の返品特約付きでの仕入れを承諾していたりしたのだ。
 仮に「オリコン対策」が方便として使われていたとするならば、他に何のメリットがあってこのようなことが行なわれていたのだろうか。考えられるのは仕入れから返品までのタイムラグを利用し、レコード会社が仕入れに対する売上金を、返品による返金発生までの期間の運転資金に使うことぐらいか。ただシングルCDの送り付けにしろ、返品特約付きでの仕入れにしろ、比較的規模の大きい会社ほど行なっていたので、運転資金にそれほど困っていたとも思えないが。
 あの当時のオリコンチャートの集計が出荷枚数をベースにしたものだという認識を覆す材料は無いが、よく考えたら「出荷枚数のみ」で集計されていたものという根拠も無いことに気が付いた。以前の私のエントリーでは「出荷枚数のみ」で集計されていたかのような記述になっており、私自身それ以外の要素が含まれていたかどうかの検証はしたことが無かった。当時も今も、オリコンの集計方法はブラックボックスの中なのだ。この点はお詫びして訂正させていただきたい。
 ただ発売の2週目以降発注がほとんど無い商品というのはそれほど珍しいものではなく、特にアイドルのCDなどは購買層が決まっている(買う人は買うし、買わない人は絶対に買わない。つまり浮動層がいない)ので、本当に入荷日と発売日の2日間しか売れないということがよくあった。イニシャル(初回入荷分)以降のオーダーをすることがないので、大抵いつも入荷数>実売数であった。しかるに、チャートを見ると発売2週目で順位をガクっと下げるものの、20位代ぐらいにランクインしていたりするのは当時から不思議ではあった。何しろ自分の店では2週目の実売ゼロ、当然発注もゼロなのだから。売れ行きには販売店の個性も表れるので、アイドルものに強い店舗などは発売日以降も売れる、或いはキャンペーンの実施などによって多少バックオーダーが入るのだろうぐらいに思っていた。
 件のA氏の言う「事実誤認」に対して私が言えるのはこれくらいか。最後に私個人のオリコンチャートに対する考えを披露しておくと、順位を操作される余地は充分にあると思うし、実際ある程度は操作があるのだろう。ただそれを操作しているのはオリコンそのものではなく、レコード会社やアーティストの所属事務所、或いは代理店などの意向だろう。そうした思惑が働く背景にはオリコンチャートが権威として存在する必要があり、こんなことが話題になるうちはそれが認められているということになるのではないか。