Rickie Lee Jones@オーチャードホール



10年ぶりの来日だそう。私が見るのは90年に『Flying Cowboys』のツアーで来た時以来だから14年ぶりのご対面になる。
当初弾き語りでの公演と聞いていたが、蓋を開けてみればちゃんとバンドを率いて来ていた。最新作にして大傑作の『The Evening Of My Best Day』の音を期待するには弾き語りではちょっと…と思っていたので、これは嬉しい誤算。編成はベース、ドラム、キーボード、それにソプラノからアルト、バリトン、テナー及びフルートまで吹く管楽器担当の計4人。ギターは全てリッキーが弾いた。
オープニングこそ、足元を確かめるかのように慎重に、かつゆっくりと演奏を始めたバンドだったが、ジャムセッション風に紡ぎ出される音の感触を確認すると、会場全体はあっという間にバンドのマジックに包み込まれる。加えてリッキーの透明感のあるハイトーンヴォイスの吸引力は凄まじく、1曲目が終わるころには皆が座席から身を乗り出して聴き入っていた。
選曲はおよそ半分が最新作から。名曲揃いのアルバムなので、単純にそれらが聴けたことでも満足であったが、緊張感溢れる演奏が曲をさらに高めていた。今回のライヴで特徴的だったのはほぼ全曲がジャムスタイルで演奏されたことだ。アレンジは細かい部分までは決められておらず、その場の空気によって変化が加えられていたようだ。その総合指揮を取ったのはもちろんリッキーで、彼女は歌いながらも各メンバーに細やかなサインを絶えず送っていた。エレピを弾いていたキーボード担当にオルガンに回るよう指示したり、管楽器担当はリッキーの表情を見ながらソプラノかフルートか見極め持ち替えたり、といった場面が何度も見られた。当然のこと各メンバーはリッキーの要求に応えられるだけの力量を持ったプレイヤーばかりで、リッキーの手となり足となり、質実剛健のツボを押さえた演奏を聴かせる。ジャムマナーとも言うべき方法に則った過不足ない音絵巻から得られるカタルシスは筆舌に尽くしがたい。至福の音を浴びる私はただただ聴き入るばかりで、演奏が終わるたびに拍手を送ることでしか感想を表せないのがもどかしかった。演奏中何度「すっげ〜」と漏らしたことか。
90年代半ばからしばらく続いた迷走期間を経て、初心に立ち返ったかのような『The Evening Of My Best Day』でリッキーは自分の居場所を自覚したのだろう。その最新作からの曲は演奏自体が誇らしげで自信に満ちていた。「Youngblood」や「Chuck E's In Love」など古い曲も演奏したが、出し惜しみしてじらした挙句では無く、あくまでファンサービスという感じ。「文句ある?」とでも言いたげなアンコール無しも満足感を削ぐものではなかった。でもこんなに充実した演奏を聴かせる現在のリッキーが、東京公演1回だけというのはもったいない。次は10年も空けずに来てほしいものだ。