Iggy & The Stooges@渋谷AX



体の具合は昨日の内にずい分良くなった。天気も良かったので、寝てばかりでなまった体を少し動かそうと、午後近所の多摩川沿いまで散歩に出かけたほどだった。しかしこれがいけなかった。昨夜夜半になってまた熱がぶり返してしまい、今朝も歩くのに少し無理を感じるレベルだった。たまっているであろう仕事のことが頭をかすめたが、今夜のイギーのために大事を取って会社はお休みにした。
夕方まで鋭気を養いAXへ。とは言ってもさすがにフロアで暴れるだけの体力に自信はないので、後方のミキサー卓横のスペースを確保し、柵に寄り添いながらおとなしく見ることに。
ステージ後方には「FUCK YOU」と書かれた星条旗が掲げられている。これだけでにんまりである。客電が落ちるとその星条旗の上に「STOOGES」の安っぽいネオンサインが光り、一気にヴォルテージが上がる。バンドメンバーに続いてイギーが飛び出してくると同時にぎゃあああああ〜!!と絶叫してしまった。もう体がどうのこうの言ってられない。
イギーは最初から上半身裸である。この人にとってはこれが正装なのだ。きつめのジーンズをへそ下10センチほどの低い位置で穿いており、ちょうど『RAW POWER』のジャケットと同じ格好。遠目に見てもしわっぽいとはいえ、隆々の筋骨は相変わらずで、右へ左へ飛び跳ね周りながら、客を煽る煽る。もちろん観客もこれに応え、前方はモッシュの嵐が巻き起こっている。それには参加できないけれどこちらも思わず飛び跳ねて大騒ぎだ。ロックンロールの重要無形文化財、淫力魔人のご本尊を目にしたら前後のことなど構ってはいられない。
ホントにこの人はどういう日常を送っているのか、何を食べているのか、凡人の想像を絶する世界の住人としか思えないパワーを放射し、手の着けられない凶暴なパフォーマンスを繰り広げる。それがお約束と分かっていても、その凄まじさには圧倒される他ない。フロアにはどんどんダイブを決める。4レター・ワーズは連発する。客をステージに上げる。マイクは床に叩きつける。マイクスタンドはへし折るわ、投げつけるわ。アンプにはよじ登るし、積み上げられたスピーカーは倒そうとするし。こんな56歳がいるか?いや、たとえ20や30でもこれに匹敵するパフォーマンスができる人物はちょっと見つからないだろう。
今回はストゥージズ名義での公演であるから、往年の名曲を惜しげもなくバンバン披露してくれた。終演後セットリストをもらったので、下に転載した。見てもらえればお分かりのように、ファーストと『FUN HOUSE』の曲はほとんど演奏したので大満足。何故か『RAW POWER』からは完全にオミットされていたが、それも気にならないほどだった。客が聴きたがっている曲を充分承知した上で、往時を思わせるテンションで演奏するという課題は見事にクリアされていたからだ。ギターとドラムのアシュトン兄弟(30年前の電話番号で連絡が取れたというエピソードが最高)は、さすがに現役を退いていた期間が長かったのか演奏におぼつかない部分が感じられたが、それは予測の範囲内。ベースのマイク・ワットはセッション経験が豊富なだけあり、バンド全体の牽引役としてグルーヴを生むことに貢献していた。
アンコールを含めて約1時間半のステージは、あっという間。あれだけ濃い内容だったのにまるで長いと感じさせなかったのは、パフォーマンスの出来の良さゆえだろう。客電が点いて終了のアナウンスが流れても、アンコールを求める歓声が消えなかったライヴも久しぶりの気がする。よーっし、イギーに顔向けできるように明日から私も働くぞー。

setlist
1.Loose
2.Down On The Street
3.1969
4.I Wanna Be Your Dog
5.T.V. Eye
6.Dirt
7.Real Cool Time
8.No Fun
9.1970
10.Fun House
11.Skull Ring
12.Dead Rock Star
13.Little Electric Chair
====encore====
14.Little Doll
15.Idea Of Fun
16.I Wanna Be Your Dog
17.Not Right

15曲目は新曲で「他では演奏したことがない」と言っていた。17曲目はペーパー上では括弧書きされており、興が乗れば演奏する予定だったらしい。実際16が終わった時、メンバーは一旦帰りかけたが、イギーが指示してから演奏された。